
しかし,その後のミックス・ダウンなのかマスタリングなのかしらないが,肝心の生気が奪われていく。“綺麗な”演奏へと修正されていくように思えるのだ。
しかし,この“綺麗な”音造りは当の寺井尚子が望んでのこと。この点を意外に思うのだが,寺井尚子は,理想のバンド・サウンドのためならば,ジャズ・ヴァイオリニスト=寺井尚子を殺すことができる。全体のバランスが良くなるのであれば,自分のソロが退くことにやぶさかではない。そう。寺井尚子は大人なのだ。
でもでも…。管理人の愛する寺井尚子はイケイケ=我を忘れて渾身のアドリブを繰り出す“女帝”寺井尚子である。そんなジャズ・ヴァイオリニスト=寺井尚子が聴けないものか…。
そんな管理人の願いを叶えてくれるCDがある。『NAOKO LIVE』(以下『ライヴ』)である。
『ライヴ』には,寺井尚子の“オレがオレが”な気性が出ている。“女帝”寺井尚子の演奏が痛快&爽快。この“じゃじゃ馬”なジャズ・ヴァイオリニストに親近感を覚えてしまうのだ。
『ライヴ』は前作『プリンセスT』のフォロー・ツアーの録音盤。ギターのリー・リトナー,ドラムのハーヴィー・メイソン,ピアノのアラン・パスクァ,ベースのデイヴ・カーペンター,プログラマーのヨーカム・バン・デル・ザークの超大物集団をバックに,寺井尚子のヴァイオリンが躍動する。
これぞライブの臨場感。スタジオであれば没テイクとなるミス・タッチもお構いなし。とにかく勢いのゴリ押し。
『シンキング・オブ・ユー』の2倍速で突っ走る【SPAIN】での激しいインプロヴィゼーションは「お姫様アイドル」のイメージで売っているスタジオ録音盤では“めったに聴けない”ライブの醍醐味である。この“自己主張の強さ”がハイライトであろう。
加えて『ライヴ』には,スタジオ盤には少ない,バック・ミュージシャンのソロにもスポットライトが当てられている。
やはりリー・リトナーは“世界の”リー・リトナーであった。ヴァイオリンのバックで刻むリズムを聴き拾っていくだけで驚嘆するしソロで前面に出てのアドリブが実に楽しい。いや〜,リー・リトナーは「最高の共演者キラー」だと改めて再認識させられる。

これまでの熱狂は全て,静寂の【THINKING OF YOU】のためにあった。そう思わずにはいられない“白眉の”出来である。
実に美しい。甘くメロウなヴァイオリンの調べがリー・リトナーのアコギと溶け合っていく。このシンクロを体感した寺井尚子の感動の涙声。もう声になっていない。随分とセッションで鳴らしてきた寺井尚子にして「異次元の手応え」を感じたのだろう。
【THINKING OF YOU】での「異次元の手応え」は,ライブ終了後も,寺井尚子の身体の中にしっかりと残っている。そう。【THINKING OF YOU】は,寺井尚子の“ブレイクスルー”の記録である。
01. spain
02. stolen moments
03. black market
04. beijos
05. lagrima
06. shadow play
07. cantaloupe island
08. tokyo-la jam
09. rio funk
10. thinking of you
(ビデオアーツ/VIDEOARTS 2001年発売/VACV-1039)
(ライナーノーツ/寺井尚子,リー・リトナー)
(ライナーノーツ/寺井尚子,リー・リトナー)