
出来としては『オール・フォー・ユー』以上に,EMIレーベル移籍後の諸作に軍配が上がる。しかし『オール・フォー・ユー』が感じる“サムシング”を“綺麗な”演奏の探求では決して越えられないと思う。
それこそジャズの真髄であり,ハプニングである。設計図などあってないような演奏なのに,出来上がってみれば設計図通りに“ピシャリ”のヴァージョン・アップ。興奮に満ちた寺井尚子のジャズ・ヴァイオリンが痛快である。
『オール・フォー・ユー』の成功の秘訣は2つ。
1つには,セッション・アーティスト=寺井尚子の本領発揮の大物ゲスト・リシャール・ガリアーノの存在にある。リシャール・ガリアーノの懐に深さに“手加減なし”で寺井尚子がブチ込んでいく。
差しつ差されつの丁丁発止。素晴らしい鍔迫り合いから産み落とされたギリギリの調和。無意識のうちにヴァイオリンとアコーディオンの美しい音色が重なり合う瞬間の奇跡が凄すぎる。
もう1つは,セルフ・プロデュサー=寺井尚子の存在にある。予定調和などクソ喰らえ。「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ」的な演奏が可能になったのも,セルフ・プロデュサー=寺井尚子のOKサインの功績であろう。
『オール・フォー・ユー』で感じる,緻密なスタジオ・ワークと瑞々しいライブ感の両立。ん? このフレーズはカシオペアの『ミント・ジャムス』?
そうかっ『オール・フォー・ユー』は寺井尚子の『ミント・ジャムス』なのだった。ちゃんちゃん。

管理人の結論。『オール・フォー・ユー』は寺井尚子の『ミント・ジャムス』である。この時期の寺井尚子はカッコよかった〜。なぜこの路線をやめたのだ〜。うらめしや〜。
PS 『オール・フォー・ユー』のジャケット写真。井川遥に似ていませんか? この時期の寺井尚子は美しかった〜。
01. A Gua De Beber
02. Be Bop
03. あなたがわたしをさがすとき
04. Libertango
05. All For You
06. La Valse A Margaux
07. Au Clair De Lune
08. Scirocco
09. Sunflowe
(ビデオアーツ/VIDEOARTS 2001年発売/VACV-1041)
(ライナーノーツ/寺井尚子,馬場啓一)
(ライナーノーツ/寺井尚子,馬場啓一)