NIGHT FLIGHT-1 『ドリームダンシング』で決心した,寺井尚子の極意「トラック買い」。

 『NIGHT FLIGHT』(以下『夜間飛行』)のお目当ては,ウェザー・リポートの【バードランド】。
 もしや寺井尚子の「一人五役?」も予想したが【バードランド】での寺井尚子ウェイン・シューター仕様での大登場。
 「へぇ〜,ジョー・ザビヌルではないんだ」が正直な第一印象。まっ,ジョー・ザビヌル役には北島直樹が控えているので当然と言えば当然なのだ。
 ではジャコパスアレックス・アクーニャはどうかというと,こちらも磐石の成重幸紀中沢剛が控えている。そしてマノロ・バドレーナパーカッションの代役は細野よしひこギターである。なかなかである。

 そう。寺井尚子の追い求める“理想のバンド・サウンド”が【バードランド】で完成している。続く全11曲を聴き比べても,これまでの寺井尚子の突出は感じられない。
 この理由こそ【バードランド】でのウェイン・シューター専従にある。ともすると弾きすぎる傾向のある寺井尚子ののジャズ・ヴァイオリン。要は色気が多いのだ。

 しかし【バードランド】での寺井尚子は弾きすぎない。欲望抑え目のウェイン・シューター専従に徹している(もといザビヌル・パートも結構弾いているのだが,印象として!)。
 ゆえに,バンド・メンバーが生きている。元々,バック4人は(若手の中沢剛も含めて)熟練の名手たち。寺井尚子北島直樹細野よしひこの3人ユニゾンまで入っている。凄い。これは寺井尚子・サウンドの“革命”である。

 まっ,ここだけの話,バンドが「上等なジャズの仕立て屋さん」になったってこと。『夜間飛行』にも東芝EMI移籍後の“恒例”スタンダード・ナンバーが選曲されているのだが『ドリームダンシング』につきまとう「イージー・リスニング風味」が薄れ,何を演っても「ジャズの響き」が聴こえてくる。凄い。これぞ寺井尚子・サウンドの“革命”である。

 どうやら管理人の見切りは早かったようだ。
 『夜間飛行』での“NEW”寺井尚子・グループの5人は対等の関係にある。寺井尚子がバンドの一フロントとして“馴染んでいる”。寺井尚子が『夜間飛行』で“抑制美”をついに覚えた。というかバンドの枠内に初めて“丸く収まっちゃった”って感じかな? 寺井尚子特有のカドやデッパリや抵抗が消えている。

 その“象徴”が,CD−EXTRA仕様:【ラ・クンパルシータ(ライヴ映像)】。官能的なタンゴを演っているのにスイングしている。

NIGHT FLIGHT-2 ついにオリジナル偏重のアレンジ重視から離れ,ジャズ・ヴァイオリンの演奏そのものでジャズの本質を表現する手法へシフトしてきた。しかもソロイストとしてではなくバンドとしてグループとしてユニットとしてトータル・サウンドとして…。

 そうは言っても寺井尚子の音楽は,ジャズというジャンルやヴァイオリンという楽器の枠内からかなり“はみ出している”。でもその“はみ出し感”が寺井尚子最大の魅力だと思う。

 惜しむべきは,ああ,神のいたずら。一度切れた愛情を取り戻すのは難しい。なんで『ドリームダンシング』の前に『夜間飛行』に出会わなかったのだろう。なんで●野●子の前に○野○子に出会わなかったのだろう。
 管理人は『夜間飛行』で寺井尚子とやり直そうと思いました。

  01. BIRDLAND
  02. A NIGHT IN GALICIA
  03. POMPON BLANC PARFAIT
  04. LA CUMPARSITA
  05. AND HERE YOU ARE
  06. NIGHT FLIGHT
  07. LAZY ANGEL
  08. JOY OF SINGING
  09. IN MY CHILDHOOD
  10. SONG FROM THE OLD COUNTRY
  11. FROM NAUGHT

(東芝EMI/SOMETHIN'ELSE 2006年発売/TOCJ-68072)
(ライナーノーツ/藤本史昭)
CD−EXTRA仕様:【ラ・クンパルシータ(ライヴ映像)】

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