ADAGIO-1 『ドリームダンシング』で決心した,寺井尚子の極意「トラック買い」。

 『ADAGIO』(以下『アダージョ』)のお目当ては【サムタイム・アゴー〜ラ・フィエスタ】。【ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ】に続く『リターン・トゥ・フォーエヴァー』からのチック・コリアの大名曲。
 …と,いつもなら書き始めるところであるが…。

 『ジェラシー』『小さな花〜アマポーラ』で感じた“NEW”寺井尚子・サウンドを『アダージョ』で確信した。
 『アダージョ』は,もはや“寺井ワールド”と称するしか他にない,圧倒的な存在感で満ちている。

 寺井尚子のニュー・サウンドは「何を演っても同じ」→「トラック買い」ではなくなった。アルバム全体で1つの音楽作品。トラック毎のブツ切り,ではなく,アルバムとしての連続性・起承転結を有する音楽物語へと昇華しているように思う。

 ズバリ『アダージョ』のテーマはヨーロッパ。寺井尚子カルテットの有する“豊かな音楽性”で,クラシカルなヨーロッパの名曲を,原曲のイメージを損なうことなく,現代ジャズの名曲へとメンバー全員で仕上げている。

 【タイム・トゥ・セイ・グッバイ】【アルビノーニのアダージョ】【ニュー・シネマ・パラダイス 〜愛のテーマ〜】のカヴァー3トラックはイタリアゆかりの名曲。
 一方,フランス語で「初恋」を意味する【プルミエ・ラムール】。パリのアンティーク街【クリニャンクール】とオリジナルはフランスゆかりの佳曲。
 他にも【ラ・フィエスタ】はスペインしているし【ラスト・ワルツ】は全英NO.1ヒット。どうですか,この寺井尚子のヨーロッパづくし!
 そう。『アダージョ』は,寺井尚子流・ヨーロッパの「押し寿司」である。← ここが「ちらし」でないところがポイント!?

 選曲だけではない。ヨーロッパを代表する楽器としてのヴァイオリンが,過去最高に“ヨーロッパっぽく”鳴っている。
 例えば『アダージョ』の目玉であろう【アルビノーニのアダージョ】。【アルビノーニのアダージョ】が,こんな感じの4ビートにアレンジされるとは想定外の大収穫。緩やかな曲調の中にも漂う緊張感が心地良い。
 パッショネイトなアドリブの終わりに流れる例のテーマ。例のテーマが流れてくると,もうここはヨーロッパの香り。さっきまでのジャズ・ヴァイオリンが嘘のような“ヨーロッパの”ヴァイオリン然。いや〜,衝撃的な展開である。

ADAGIO-2 『アダージョ』の一押し【タイム・トゥ・セイ・グッバイ】を是非聴いてほしい。
 ジャズ・ヴァイオリン界の“七色の歌声”を有する寺井尚子が,情感タップリに歌い上げ,寺井色に染め上げる。
 この歌声はもはやオペラ歌手。寺井尚子ジャズ・ヴァイオリンが,肉声を越え,サラ・ブライトマンを越え,パヴァロッティとなった。

 ぬくもりのある木製楽器の音の魅力。時に繊細で時に野太く時にリッチで時に潤いのあるヴァイオリンの音色。
 【タイム・トゥ・セイ・グッバイ】における寺井“パヴァロッティ”尚子ジャズ・ヴァイオリンの音色を聴いていると,寺井尚子の「ヴァイオリンは肉声に一番近い楽器」という名言(迷言?)が浮かんでくる。説得力あるよなぁ。

  01. Time To Say Goodbye
  02. Adagio
  03. Premier Amour
  04. Nuovo Cinema Paradiso
  05. Sometime Ago〜La Fiesta
  06. Clignancourt
  07. The Key Of The Heart
  08. The Last Waltz
  09. In The Breeze
  10. Little Cry For Him
  11. Only Blue

(東芝EMI/SOMETHIN'ELSE 2009年発売/TOCJ-68084)
(ライナーノーツ/高井信成)
CD−EXTRA仕様:【アルビノーニのアダージョ(ライヴ映像)】

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