
その意味で,松永貴志の4THCD『INORANGE ORANGE』(以下『無機質オレンジ』)は,CDタイトルとは間逆の“有機質”な名盤である。
とにもかくにも松永貴志のジャズ・ピアノが躍動している。19歳の血肉がスピードとダイナミズムを伴って迫ってくる。何ともエモーションで強烈な生命力を感じるのだ。
『無機質オレンジ』で,若年寄りの殻を破った“等身大”の松永貴志が再デビュー。過去の3作と比べて一番「新人のいきのよさ」を感じさせる。松永貴志はやっぱり10代,若かった〜。
本来,有機質であるはずのオレンジ。しかし松永貴志はオレンジを「無機質なクールな一物体」として捉えている?
この松永貴志の得意な選曲眼がジャズに向けられ完成した【無機質オレンジ】。思うに松永貴志の「無機質」とは「ジャズに必須なエモーション&感情の目を閉じること」。そう。音楽を感情抜きに,冷静に,理知的に…。
事実【無機質オレンジ】に関するライナーノーツの記述の中に「1オクターブの間にある音を13個並べて,それを演奏するために8分の13拍子にした。それを右手と左手でリニアに動かしてテーマやソロを弾くのがこの曲のコンセプト」と書かれたあった。やっぱり音符の分析作業。
学者が物事を理知的に分解していくのと同じように,ジャズ・ピアノ研究家?=松永貴志先生が音楽をジャズ・ピアノを理論的に分解していく。キメを多用し,無機質に,メカニカルにゴリゴリと進んでいく。まるでパズルを作っているかのように…。
しか〜し,出来上がりだけを聴くと理論武装の痕跡は隠されている。一聴,機械的な音列で組み立てられた無機質な展開のその先に松永貴志の“ヒューマニズム”が溢れている。有機質なオレンジの香りがほんのり漂っている。
この感覚は松永貴志のデビューCD『TAKASHI』でも感じた,ジョン・コルトレーンの“シーツ・オブ・サウンド”的である。王道世代の理論家=ジョン・コルトレーンと新世代の理論家=松永貴志。コード進行の限界を越えてエモーションの頂点へと到達した共通点。
事実『無機質オレンジ』でのジャズ・ピアノはジョン・コルトレーンばりのフリー・ジャズ・テイストでもある。ここにも意外な共通点。ジョン・コルトレーンの道筋をこのまま歩み続ければ,浮気せずに歩み続けさえすれば,松永貴志もきっと大物になる〜。

こんなに大甘なバラードを19歳が作曲して良いものだろうか? なんてロマンチック神戸がメロディアスに美しい。
こんなに激変アレンジな【オン・グリーン・ドルフィン・ストリート】は初めてである。なんて新鮮なビル・エヴァンスがミシェル・ペトルチアーニで理路整然。素晴らしい。この2トラックは今後幾年も語り継がれるべき名演だと思う。
さて,最後に“若年寄り”と呼ばれてきた松永貴志の若返りの秘訣を教えよう。それはベーシスト=ウゴナ・オケグォとドラマー=エリック・ハーランドのニューヨークの老練との共演にある。
ウゴナ・オケグォとエリック・ハーランドの快演が松永貴志を童心へと帰らせた。CD−EXTRAで観せる松永貴志のニッコニコの笑顔。「あ〜,ピアノって,ジャズって,なんて楽しいのだろう。最高〜」(by 松永貴志の心の声?)
01. INORGANIC ORANGE
02. DAN DAN DAN
03. A CHILD IS BORN
04. ONIGASHIMA
05. KOBE
06. C JAM BLUES
07. F・I・S・H・C・R・Y
08. ON GREEN DOLPHINE STREET
09. SKY DE SKY
(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 2006年発売/TOCJ-68071)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
CD−EXTRA仕様:【神戸】【無機質オレンジ】
★スイングジャーナル誌選定【ゴールドディスク】
(ライナーノーツ/小川隆夫)
CD−EXTRA仕様:【神戸】【無機質オレンジ】
★スイングジャーナル誌選定【ゴールドディスク】
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