02-1 ジャズ界には「2年目のジンクス」ならぬ「2枚目のジンクス」という言葉がある。

 「2枚目のジンクス」はジャズメンのデビューが比較的遅いことに起因している。そう。ジャズメンの多くは,長年陽の当たらない場所で活動を続け,本物と認められた実力者だけがデビューできる特異な環境の元に置かれている。そんな“遅咲きの”ジャズメンにとってはデビュー盤=「最初で最後」の可能性有。「長年待ち設けてやっと掴んだ大チャンス。2度と離してなるものか〜」的な意気込みでよく練られた内容の名盤が多いのだ。

 16歳での“衝撃の”デビュー矢野沙織の熱烈大ファンとしては「大事に育てたい。育ってほしい」と願うもの。矢野沙織が“伸るか反るか”の分かれ道。もっとも重要なセカンドCD02』のリリースに「2枚目のジンクス」の言葉がよぎった。
 しか〜し,心配御無用。“衝撃の”デビューCDYANO SAORI』以上の濃密な演奏。全ての不安を吹き飛ばすカウンター・パンチの返り討ち。素晴らしい。“遅咲きの天才”もいれば“早熟の天才”もいるものである。

 『02』で喰らったカウンター・パンチ。実は『02』の衝撃が今も管理人の脳を揺らし続けている。『02』のメガトン・パンチ以降,管理人は矢野沙織の年齢を思い出せないでいる(「JAZZ QUEEN矢野沙織様は1986年10月27日生まれです)。
 あの惚れ惚れする音色,フレージング,タンギング,リズム感,ホットな熱情とクールなニュアンス,そしてインプロヴィゼーションの冴え…。どう聴いても何回聴いても“ビ・バップ”であり“パーカー派”のアルトなのである。

 矢野沙織は巷で「16歳にしては,17歳にしては,10代にしては」という表現で批評されることが多い。しかし,そんなニワカ・ジャズ・ファンなど“クソ喰らえ”である。
 『02』でのアルト・サックスを聴かされて,冷静に矢野沙織の年齢のことなど考えられるはずがない。考えられるわけがない。そうできるのはその人がニワカだからである。

 『02』の再生中は,ただ固唾を呑んで矢野沙織アドリブと対峙するのみ。思考など停止して身体で単純に「パーカー・ショック」を浴び続けるのみ。全11曲の大名演に呼吸をするのはトラック終了後の無音部分のみなのだ。管理人久々の「酸欠ジャズ」なのだ。く〜っ,たまらなくう・れ・し・い。

 『02』が流れている間は何も出来ない。火事が来ようが地震が来ようが電話がかかってこようとも動けない。「パーカー・ショック」の金縛り。ゆえに今回の『02批評も書きたいことは沢山あったが,やはり『02』の同録レヴューはかなわなかった。

02-2 『02』の演奏は「素晴らしい」の一言に尽きる! 矢野沙織“運命の”2枚目は,成績不良でも,まあまあでも,横ばいでもなかった。ジンクスは打ち破られた。

 『02』は『YANO SAORI』の更なる拡大路線作。バックも基本『YANO SAORI』と同じハロルド・メイバーンナット・リーヴスジョー・ファーンズワースピアノ・トリオであって,綿密にアレンジを作り込んでいる。
 矢野沙織が『02』で“パーカー派”の最高位奪取へと向かい出した。管理人は矢野沙織の挑戦を最後まで見届ける気概でいる。矢野沙織よ,挑戦し続けるんだ。夢はかなう。

 『02』について他に記すことがあるとすれば『02』のマスター・テープが音写りを起こしているという事実。【ザイオン】【スクラップル・フロム・ジ・アップル】のイントロとアウトロは極端にむごい。【ワーク・ソング】ではジッターもある。
 超一流のアバター・スタジオとコロムビアには,未来の“パーカー派”の最高位=矢野沙織の音源を扱うに際しては,今後特に注意深く管理していただきたい。

  01. Laird Baird
  02. 砂とスカート
  03. Lover Man
  04. Rizlla
  05. The Days Of Wine And Roses
  06. Work Song
  07. Zion
  08. Scrapple From The Apple
  09. Everything Happens To Me
  10. Billie's Holiday
  11. Open Mind

(サヴォイ/SAVOY 2004年発売/COCB-53231)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)

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