
最近の山中千尋のジャズ・ピアノは分かりやすい。別に以前が難解であったの意ではない。コンセプトが明瞭なので聴きやすいだけ。一方,デビュー盤の『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』はノーコンセプト。同じ聴きやすいでも,こちらは“普通っぽい”名演集。
しかし,この“普通っぽい”が“普通っぽくない”山中千尋の個性を際立たせている。思うに山中千尋は「オール4」のジャズ・ピアニストである。
大西順子の男勝り。木住野佳子の繊細さ。上原ひろみの爆発力。石原江里子のヘタウマ…。
山中千尋を強いて言えば“エレガント”なのであろうが,上記4人の特徴と比べてインパクトが薄い。でもでも飛び抜けた特徴が薄くても総合力で捉えた山中千尋の個性はズバ抜けている。バランスが良いゆえ,山中千尋の様々なピアノ・タッチの表情がボディーブローのように効いてくる。
“普通っぽい”が“普通っぽくない”。いそうでいない「オール4」なオールランダーが,強烈に超個性的なジャズ・ピアニストなのである。
管理人にとって『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』はスルメ盤。聴き込む度にだんだん良くなってくる。この「爽やかなスイング感」こそがジャズ・ピアノを聴く醍醐味であろう。
山中千尋はインテリジェンス。アレンジに特別な才がある。つまりはオリジナルの世界観を提示する「伝える力」に優れている。まあ,美人だしね…。
『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』でのチヒロ・ヤマナカ・トリオは女性2人と男性1人。ドラマー=ラフレェ・オリヴィア・スキィが女性なのも『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』を「特異な存在」にしている要因であろう。
例えば1曲目の【BEVERLY】。このトラックの聴き所はミディアム・テンポのスイング感。ゆったりノビノビとしなやかに前進していくチヒロ・ヤマナカ・トリオ。リリカルで小気味良い柔軟なスティック・ワークとピアノ・タッチ。女性ならではの色彩が表われている。う〜ん。エクセレント。
続く2曲目【GIRL FROM IPANEMA】。この“豹変ぶり”が『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』のハイライト。
“女豹”と化した山中千尋がノーテンキな原曲を換骨堕胎したかのような“原型崩れ”の大胆なアレンジがめっちゃカッコ良い。
山中千尋のダイナミックなジャズ・ピアノが大暴れ! 七色のテクニックを駆使してステレートにメロディを弾き上げた瞬間に始まるインプロヴィゼーション! この手数の多さでこのドライブ感を生み出すとはあっぱれ! それでいて“ゴリゴリ”ピアノにリズム隊が絡みつくスキを与えている。ここが管理人の言う,山中千尋のインテリジェンスとアレンジ力!
こんなに硬派でカッコ良い【イパネマの娘】は他に例をみません! やっぱり美人は手ごわかった〜!

今でこそバカ売れしているが,澤野工房時代の山中千尋は,まだ世間の目など気にしてはいない。『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』は山中千尋のセルフ・プロデュース。そう。『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』は山中千尋のセルフ・ポートレイト。
本人はいつでもいたって普通に演奏しているだけ。だから普通の人だと思って掴まえに行った瞬間,するりと身をかわされてしまう。等身大の山中千尋は「オール4」なはずなのにその完全さのあまり常軌を逸している。常識人では相対できない,ふわふわとした掴み所のないべっぴんさんでした。
「人間性が音に出る」が持論の管理人。え〜,やっぱり,大ショック。恐いもの見たさな読者の皆さんは 「ろひちかなまや」 をご覧ください。
音楽同様,ちーたんはかなりの変わり者でした。でも,本名は「よしお!」さん,かなり好きですよっ。
01. Beverly
02. Girl From Ipanema
03. A Sand Ship
04. Living Without Friday
05. Cry Me A River
06. Pablo's Waltz
07. Balkan Tale
08. Stella By Starlight
09. Black Nile
10. Invisible Friends
(澤野工房/ATELIER SAWANO 2001年発売/AS016)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/北見柊)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/北見柊)