
『スパイス・オブ・ライフ』以前の渡辺香津美は,常に時代の最先端,もっと言えば時代のかなり先を走っていた。要は前衛指向のギタリスト。そんな渡辺香津美が初めて「時代とバイブレーション(←古い)」している。
繰り返すが,この全ては「時代が渡辺香津美に追いついてきた」のではない。敢えて渡辺香津美が「時代の中心に舞い降りてきた」結果である。これが『スパイス・オブ・ライフ』での“夢のギター・トリオ”の誕生秘話であろう。大袈裟に語れば,時代が渡辺香津美に「プログレ界のドン」ビル・ブラッフォードとジェフ・バーリンとの共演を“求めた”結果である。
渡辺香津美にとってビル・ブラッフォードと「同時代バイブレーション」できたのは何とも幸運なことだったと思う。しかもビル・ブラッフォードが“泣く子も黙る”超大物で,プログレ以外にジャズもできて,ジェフ・バーリンとのコンビもチリバツで。
渡辺香津美自身としても,もはや“世界のKAZUMI”となり,お世辞抜きにギター・シンセ弾きの第一人者の名声獲得。ギター・シンセという強烈な武器が渡辺香津美に「ここは山から世に降りて,いっちょ,大暴れしてやろうか」と思わせた? そう。『スパイス・オブ・ライフ』の渡辺香津美は完全なる「ギター・ヒーロー」としての登場だったのだ。
勿論『スパイス・オブ・ライフ』以前の渡辺香津美も「ギター・ヒーロー」であった。しかし実際には,ギター小僧の大半は野呂一生を,あるいは高中正義をコピーした。理由は単純に渡辺香津美のギターよりも野呂一生や高中正義の弾くギターの方がカッコよかったからだ。
そして渡辺香津美には失礼な話で申し訳ないが,渡辺香津美のCDを聴く目的は渡辺香津美ではなかったりする。
「KYLYN BAND」での坂本龍一,矢野顕子,小原礼,村上“ポンタ”秀一,ペッカー,向井滋春,本多俊之,益田幹夫,高橋ユキヒロ,伊東毅。
「KAZUMI BAND」での笹路正徳,清水靖晃,ベースの高水健司,山木秀夫。
「MOBO」におけるロビー・シェイクスピア,スライ・ダンバー,マーカス・ミラー,オマー・ハキム,スティーブ・ジューダン,マイケル・ブレッカー,ケイ赤城,橋本一子,グレッグ・リー,渡辺建,仙波清彦,坂田明,梅津和時,青山純,デヴィッド・サンボーン…。
特に『MOBO』における渡辺香津美のスポットライトは名バッキング。渡辺香津美のリーダー作を購入する時,いつも心のどこかに別のお目当てがいて,そのお目当てのサイドメンの名演を期待する自分がいた。
しかし時代はギター・シンセ。渡辺香津美のギター・シンセが野呂一生や高中正義よりカッコよい。他の共演者の誰でもなく,間違いなく渡辺香津美のギター・シンセを聴こうと思った。

表向きは“天才”と讃えられるもバンドでの指定席は「万年2番手」。そんな苦汁を「KYLYN BAND」〜「KAZUMI BAND」〜「MOBO」で味わってきた。
だからこそ,今だからこそ“夢のギター・トリオ”。『スパイス・オブ・ライフ』での共演者はビッグであればビッグである方が良い。それゆえ「プログレ界のドン」ビル・ブラッフォードとジェフ・バーリン。今度こそ「真の格闘技セッション」の開幕なのだ。
当世NO.1のビル・ブラッフォードとジェフ・バーリンのリズム隊を「踏み台?」として“自ら時代に寄りかかった”渡辺香津美のギター・シンセの何と彩り豊かなことだろう。「手を替え品を替え」フロントを一人で受け持っている。
『スパイス・オブ・ライフ』は「KAZUMI BAND」でプログレ・フュージョンを経験し「MOBO」でギター・フュージョンを経験した渡辺香津美の考えるジャズ・ロック。
そう。『スパイス・オブ・ライフ』は,ロックのスピリッツをジャズの即興演奏で奏でられた美メロの玉手箱なのだ。だ・か・ら・「非・渡辺香津美な」アルバム。でしょ?
ジャズ/フュージョン・ファンよりもプログレ・ファンに支持された『スパイス・オブ・ライフ』。演奏・楽曲ともに最高にど真ん中な5ツ星。文句なしの大名盤。
ただし,時代の流行ど真ん中すぎて,昔大興奮→今となっては古臭い。『スパイス・オブ・ライフ』での「同時代バイブレーション」は賞味期限が短かったかなぁ。スルメ盤ではなかったなぁ。
01. MELANCHO
02. HIPER K
03. CITY
04. PERIOD
05. UNT
06. NA STAROVIA
07. LIM-POO
08. J.F.K.
09. RAGE IN
(ポリドール/DOMO 1987年発売/UCCJ-9095)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/成田正)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/成田正)
コメント一覧 (2)
スパイスオブライフは感慨深いアルバムです。
高3の時に出たアルバムで翌年のスパイスオブライフツアー仙台公演も行きました。
しかもライブ翌日松島方面へ行く私鉄でなんと香津美先生(カメラを首にブラさげ)、ブラフォード、バーリンと遭遇!
松島へ観光との事。香津美先生からサイン頂きましたがプログレ界のビッグ2からは頂きませんでした。
香津美先生が「二人から貰ってあげようか?」気遣って下さりましたが緊張のあまり「結構です」ってなんてアホな返答をしてしまいました。う〜ん残念。
先生のサインは今でも家宝です(笑)
香津美さんのサインは家宝でしょうが, ブラフォードとバーリンのサイン。逃した魚は国宝級でしたね。
『スパイス・オブ・ライフ』の完璧なギター・トリオ。松島の風景を見た後のギター・トリオはウミネコの音が加わったかも?
ああ,いい音。プログレ・フュージョンは選ばれし者だけの音。