
そう。「無限大」から「無限大の彼方,その先,その向こう側」である。渡辺香津美の創作意欲は湧き上がる一方。誰も知らない「ブラックホールの反対側」に突入しようとしていた。
渡辺香津美は『ビヨンド・ザ・インフィニット』で“ギター組曲”へと着手した。それだけでも凄いのだが,サブタイトルが「『2001年宇宙の旅』スタンリー・キューブリックに捧ぐ」と来た。SF。宇宙。スペクタクル。モチーフが壮大すぎる〜。
CDを聴く前から,待ち受けているであろう音楽のスケールに圧倒されて“恐れおののいてしまう”自分がいた。
管理人の『ビヨンド・ザ・インフィニット』の第一声は「いや〜参った。凄い。凄すぎる」。確かに2種類の組曲=1−7の「惑星」シリーズと8,9の「ネコビタンX」シリーズは両方共に「ブラックホールの反対側」であった。
『ビヨンド・ザ・インフィニット』での渡辺香津美はジャズでもなければクラシックでもない。プログレである。プログレの「KAZUMI」リターンズである。
相当な緊張感を強いられる複雑なスコアでありながらも,音楽の感触自体はソフトである。“前のめりで”トリップできる。実にシンフォニックなプログレ・ギター組曲に“拍手喝さい”である。
渡辺香津美のプログレ・ギターの,厳密さと曖昧さ,クールとホット,冷静と激情というような相反する音楽要素の作用で,思いがけない複雑な宇宙空間にトリップさせられてしまう。厳格な構成を有しながらもインプロヴィゼーションもあればインタープレイもある。「いや〜参った。凄い。凄すぎる」。
しかし…。管理人の心の中で,憧れや称賛の気持ちと共に渦巻く不安は何なのだろう。多分,あきらめ。もうついて行けないと思った。これ以上,渡辺香津美にはついて行けない。
『ビヨンド・ザ・インフィニット』で,渡辺香津美の凄さは感じたが「だから何が言いたいの〜」と思ってしまった。ストレートに渡辺香津美の“言葉”が入ってこない。感動が伝わってこない。

だから『ビヨンド・ザ・インフィニット』を絶賛している渡辺香津美ファンの気持ちも素直に受け入れられる。反論しようなどという気はゼロである。事実『ビヨンド・ザ・インフィニット』のトラック批評が始まれば,大方,星五つと予想するこの矛盾…。はぁ。
管理人は『ビヨンド・ザ・インフィニット』の決定的な弱点に目をつぶることはできない。
そう。『ビヨンド・ザ・インフィニット』には渡辺香津美のリスナーがいない。これぞインテリSF。「素人無視の玄人路線」のギター組曲に“絶望感”だけがこだましてしまう。
なんで。なんで。なんで。香津美さん。どうして。どうして。どうして。「ブラックホールの反対側」ではなくて「リスナーの反対側」に行っちゃったの??
『ビヨンド・ザ・インフィニット』で管理人は渡辺香津美から離れました。いいや,正確には『ビヨンド・ザ・インフィニット』で渡辺香津美が管理人から離れて行きました。
香津美さん,今までのお付き合いありがとうございました。これからは香津美さんとの思い出を胸に刻みつつ,小沼ようすけくんと共に「ジャズ・ギター道」を渡り歩く所存です。
いつか,どこかで,また偶然の再会を楽しみにしつつ…。
01. MOON
02. MARS
03. MERCURY
04. JUPITER
05. VENUS
06. SATURN
07. SUN
08. NEKOVITAN X - Red Pill
09. NEKOVITAN X - Blue Pill
(ユニバーサル・ジャズ/DOZO 2001年発売/UCCJ-2014)