HOW'S EVERYTHING-1 ピアノキーボード指揮者としての“アレンジャー”デイブ・グルーシンを筆頭に,キーボードリチャード・ティードラムスティーブ・ガットギターエリック・ゲイルジェフ・ミロノフベースアンソニー・ジャクソンパーカッションラルフ・マクドナルドトランペットジョン・ファディスの「オール・スターズ」に100人編成の東京フィルハーモーニックオーケストラが加わった,場所は何と日本武道館,それも3日間公演で3万人を動員したライブ
 しかもこの時の武道館ライブが,米大手メジャーCBSコロムビアからLP2枚組みとして発売され,日本のナベサダ・ファンのために日本へも逆輸入された。

 そう。渡辺貞夫の“栄光の歩み”を語る時『HOW’S EVERYTHING』(以下『ハウズ・エヴリシング』)は外せない。
 しかし『ハウズ・エヴリシング』は名盤ではなく“迷盤”である。こんな大編成での演奏は面白くない。100人以上のバック,しかも超一流のバック相手にアルト・サックス1本で勝てるわけがない。完全に主役は“アレンジャー”デイブ・グルーシンの世界。

 もっと言えば,1982年にデイブ・グルーシンも単独で日本武道館ライブを開いたが,その実験作であり前座である。
( ← お〜っと言い過ぎた。これは勢いでの失言です。本心でそう思ったりしていません。デイブ・グルーシン・ファンの皆さん,ごめんなさい。きっと昨晩「ダークナイト」を見たせいです )。

 こう皮肉りたくなる程,デイブ・グルーシンとバック・メンバーの演奏が素晴らしい。とにかくデイブ・グルーシンの書き譜通り,キッチリ,カッチリ,生真面目に演奏している。だ・か・ら・どうにも物足りない非ジャズ
 各メンバーのソロ・タイムでのアドリブでさえ書き譜のような完成度。非の打ち所のない名演が“迷盤”の元凶なのである。

 『ハウズ・エヴリシング』での「ナベサダフュージョン」は「ソフト&メロウ」指向。当時大流行したAORからの影響が感じられ,高度に洗練された分かりやすい演奏に仕上がっており“ジャズ・サックス・プレイヤー”渡辺貞夫はここにいない。

 入念なリハーサルを繰り返したことだろうし,同じ楽曲を3日間同じ場所で演奏すればジャム・セッション的な雰囲気もハプニング的な要素も消えてしまうことだろう。その副産物としての『ハウズ・エヴリシング』なのだから仕方ないのだが…。

HOW'S EVERYTHING-2 ケチのついでにもう一つ。『ハウズ・エヴリシング』での選曲が,このライブのための書き下ろし中心ではなく「ナベサダフュージョン」を確立した『カリフォルニア・シャワー』と『モーニング・アイランド』からの選曲中心であったなら大いに盛り上がったことと思う。

 『オータム・ブロー』での“成功の法則”は『ハウズ・エヴリシング』には通じなかった。
 せっかくの日本武道館での“晴れ姿”なのだから人気ナンバーのオンパレードなら良かったのに…。
 「ナベサダフュージョン」の総決算なら良かったのに…。

  01. UP COUNTRY
  02. MZURI
  03. TSUMAGOI
  04. ALL ABOUT LOVE
  05. NICE SHOT
  06. SEEING YOU
  07. NO PROBLEM
  08. BOA NOITE
  09. SUN DANCE
  10. M&M STUDIO
  11. MY DEAR LIFE

(ソニー・ミュージックエンタテインメント/SONY MUSIC ENTERTAINMENT 1980年発売/SRCS9590)
(ライナーノーツ/高井信成,野口久光,油井正一)

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