
そして1989年の渡辺貞夫は『FRONT SEAT』(以下『フロント・シート』)。『フロント・シート』は渡辺貞夫の未来をも指し示している。
そう。『フロント・シート』は渡辺貞夫の過去と現在と,そして未来をも結ぶ集大成。
ズバリ,渡辺貞夫は『フロント・シート』を造り上げるために音楽活動を続けてきたのだ。渡辺貞夫の全ての道は『フロント・シート』に通じている。間違いない。
『フロント・シート』の渡辺貞夫はジャズでもフュージョンでもない。正に“ザ・渡辺貞夫”というカテゴリーで呼ぶにふさわしい“渡辺貞夫な”渡辺貞夫であり“渡辺貞夫中の”渡辺貞夫! そうとしか表現する言葉が見当たらない。
『フロント・シート』でのアコースティックとエレクトリックの絡み。ボーカルと伴奏の絡み。アルト・サックスとソプラニーニョの絡み。緊張感とリラックスの絡み。メジャーとマイナーの絡み。日本とアメリカの絡み。
繰り返す。『フロント・シート』の全てが“渡辺貞夫な”渡辺貞夫であり“渡辺貞夫中の”渡辺貞夫なのである。
真に渡辺貞夫は格調が高い。日本人ジャズメンの誇りである。渡辺貞夫のアルト・サックスには“和”を感じる。勿論,第一の“和”は大和魂のことであるが,第二の“和”は仲間である。
『フロント・シート』の完璧なバランス。毛色の異なるプロデューサーが3人参加しているとはにわかに信じ難い統一感。リズム隊もフロントも個性豊かにメロディアス。
渡辺貞夫がサックスで“歌う”。パティ・オースティン以上に“歌っている”。ジョージ・デューク,ロビー・ブキャナン,ラッセル・フェランテの指示の元,渡辺貞夫がサックスで“歌う”とパティ・オースティンは勿論のこと,ポール・ジャクソンJR.,エイブラハム・ラボリエル,ジミー・ハスリップ,ジェフ・ポーカロ,カルロス・ベガ,ジョン・ロビンソン,アレックス・アクーニャ,ポリーニョ・ダ・コスタ,オスカー・カストロ・ネヴィス,ニール・スチューベンハウスたちもが歌い出す。
もはや『フロント・シート』のサウンドは「チーム・ナベサダ」という“和”の結晶なのである。

全てはナベサダの“人徳”に尽きる。人肌を感じる。温もりを感じる。優しい音で“身も心も”包まれていく。
管理人も本当に幸福なことに『フロント・シート』の“和”の中に入ることができた。単純に『フロント・シート』のライブを体験できた。とにかく感動で心の震えが止まらなかった。
あの「ザ・クラブ」でのライブから23年。『フロント・シート』が流れると,いつでもどこでも感動で心が震えてしまう。
管理人の結論。『フロント・シート』批評。
渡辺貞夫は『フロント・シート』に始まり『フロント・シート』に終わる。“最高傑作”『エリス』をも『フロント・シート』が包含する。そしてナベサダ未来の大傑作までをも…。
管理人にとって『フロント・シート』こそ,男のロマンなのです。
01. SAILING
02. ONE MORE TIME
03. ONLY IN MY MIND
04. MILES APART
05. ANY OTHER FOOL
06. ON THE WAY
07. ANGA LA JUA (Place In The Sun)
08. WILD FLOWERS
09. FRONT SEAT
10. TAKIN' TIME
(エレクトラ/ELEKTRA 1989年発売/29P2-2785)
コメント一覧 (4)
おっと!
ついに真打ち登場ですね!
ナベサダの・・いや日本が世界に誇る大名盤だと思います。
演奏、アレンジ、ジャケットの写真も含めて、最高傑作ですね。
個人的には専門学校に通ってた頃、
良く聴いてたので、このアルバムを聴くと、今でもその時の事を思い出します。
色々と甘酸っぱい思い出もありましたし(笑)
この作品の持つオーラは、他のナベサダ作品とは明らかに違うように感じます。
名盤になる条件が、ベストのタイミングで融合された会心の一枚♪
パティ・オースティンの2トラックも、彼女の生涯のベストテイクに入るのでは?
セラビーさんの言われる通り、まさに「男のロマン」が凝縮された作品ですね!
タイトル曲のフロントシートが特にお気に入り、いまも・・・
真打ち『FRONT SEAT』です! このコメントを読んで『FRONT SEAT』を歌舞伎目線で書くこともできるなと思いました。
「ナベサダの・・いや日本が世界に誇る大名盤だと思います」→歌舞伎につながりそうですねっ。
流石はセミプロ写真家=クワガッタンさん。「ジャケットの写真も含めて、最高傑作」。この望遠でのボケ具合が綺麗ですよね。タイトルを地で行くナイス・ショットであります。
「パティ・オースティンの2トラックも、彼女の生涯のベストテイクに入る」に同感です。パティの圧倒的なボーカル。そのパティに負けないナベサダの歌心。この2人のケミストリーが歴史的名演に仕上がったと思います。
タイトル曲の【FRONT SEAT】。私も大のお気に入りです。ラッセル・フェランテのこんなに端正なピアノ。イエロージャケッツではなかなかお耳にかかりません。その一方,ラッセル・フェランテの後ろで控え目に鳴っているアレックス・アクーニャとオスカー・カストロ・ネヴィスの醸し出すブラジリアン。『ELIS』に通ずる幸福感が超貴重です。
私もhimebowさん同様『FRONT SEAT』にはコーヒーとの思い出があります。