
『SADAO & CHARLIE AGAIN』の真実は,渡辺貞夫とチャーリー・マリアーノの共演盤ではなく,勿論競演盤であるはずもなく,渡辺貞夫が一歩引いた「渡辺貞夫・フィーチャリング・チャーリー・マリアーノ」である。
そう。手間のかかる下地均らしは渡辺貞夫が一手に請負い,目立つパート&おいしいフレーズを全部チャーリー・マリアーノへ「渡している」。渡辺貞夫がチャーリー・マリアーノへ「花を持たせている」。「まだまだ学ばせていただきます」とばかりに渡辺貞夫が低姿勢でチャーリー・マリアーノを「持ち上げている」。
そんな名パサーと化した渡辺貞夫が“生き生きと”演奏している。渡辺貞夫にとって,友人にして恩師(バークリー音楽院時代の先生!)でもあるチャーリー・マリアーノと同じステージに立てるのであれば,例えば“名も無い”ブラス隊の一員でも良かったことだろう。
チャーリー・マリアーノと一緒にアルト・サックスを奏でられる喜び。渡辺貞夫の嬉々とした喜びが伝わってくる。2本のアルトで同じ音を合わせる喜び。ハモッタ瞬間の快感。まるで2人の鼓動まで同期しているようである。
ただし,渡辺貞夫とチャーリー・マリアーノのユニゾンが聴けるのは極わずか。録音時,チャーリー・マリアーノは82歳。72歳の渡辺貞夫はまだまだいけるとしてもチャーリー・マリアーノはさすがに息が続かない。休み休みしながら,ここぞ,という場面で“全力疾走の”アドリブ一発。
そう。『SADAO & CHARLIE AGAIN』での渡辺貞夫が名パサーならチャーリー・マリアーノはストライカー。ナベサダのピンポイント・クロスを受けてチャーリー・マリアーノがゴールを決めまくる。だからこそ「渡辺貞夫・フィーチャリング・チャーリー・マリアーノ」なのである。

“新しい”ジャズの創造に燃えていたはずの渡辺貞夫が“古い”ビ・バップに戻った印象を与えてしまうと思った。う〜む。
思うにナベサダ自身も『SADAO & CHARLIE AGAIN』をリリースするつもりはなかったのではないか?
そう。『SADAO & CHARLIE AGAIN』の本来の立ち位置はナベサダのプライベート録音。要するに40年振りの“再会”パーティーなのだから…。
01. Tokyo Dating
02. Plum Island
03. Deep In A Dream
04. Lopin'
05. Memorias
06. Call Me
07. Christmas Song
08. One For You
09. Por Toda A Minha Vida
(ビクター/JVC 2006年発売/VICJ-61398)
(ライナーノーツ/中川ヨウ)
(ライナーノーツ/中川ヨウ)