THE TRIP-1 さて,今夜は何から話しましょうか? 管理人は『THE TRIP』(以下『ザ・トリップ』)について批評する場合,相手が「アート・ペッパーをどのように捉えているか」によって語り口を変える癖がありまして…。

 よくある例題としてはアート・ペッパーの王道「前期絶賛,後期否定」のパターン。ここで例題の模範解答を書くと長くなるので全カット。詳細はバー・カウンターでリアルに語り合いましょう。
 要は『ザ・トリップ批評は“攻めではなく受け”! まずは守りを固めてカウンター勝負。持久戦と瞬発力の論戦なのです。

 しか〜し,今夜は『ザ・トリップ』の分析相手がいない。サッカーで言えば後半ロスタイムで全員攻撃のオーバーラップ。いきなり管理人の“攻め”の時間から突入ということでご了承願います。

 まず,どうしても押さえておいてほしいのは『ザ・トリップ』が“後期”アート・ペッパーの“最高傑作”であるという事実。オリジナル全6トラック+別テイク+1=7トラックが名演であるという事実。しかし,ここから話がややこしくなるのだが『ザ・トリップ』の楽曲は非常にバラエティに富んでいるという事実。

 “後期の王道イメージ・ソング”にして,アート・ペッパーによるジョン・コルトレーンの“生き写し”なモードの権化=【ザ・トリップ】。ファンタスティックでメロディアスで“前期っぽい”【ア・ソング・フォー・リチャード】。この冒頭2トラックの「陰と陽」が『ザ・トリップ』のハイライト!

 そして続くはボサノヴァ調のコード・チェンジが印象的な【スウィート・ラブ・オブ・マイン】。【ザ・トリップ】のトラック批評ジョン・コルトレーンの『至上の愛』を語ったのであれば【スウィート・ラブ・オブ・マイン】ではジャッキー・マクリーン矢野沙織についても語らなければなりません。

 一転してハード・バップでブルースな【ジュニア・キット】の登場。ここが『ザ・トリップ批評の“山場”であり,この山を乗り越えたとしても,トドメにロックな【レッド・カー】が控えている。乗るにしても反るにしても,相手のカウンター戦術にハマル危険性大。

 おおっと,管理人一押しの【ザ・サマー・ノーズ】がスーパー・サブ。【ザ・トリップ】が7回まで無失点で迎えたというのに,敢えて監督・落合博光が「抑えの切り札」として登板させてしまう理不尽さ。【ザ・トリップ】の力投が報われない気分に襲われる。しかも曰くつきの超名演がラスト・イニングの9回ではなく中継ぎエースな8回の場面なのだから…。

 この全7トラックのどれとどれを組み合わせて,こちらのペースに持ち込むかがケース・バイ・ケース。『ザ・トリップ』には無限の可能性が秘められており,それはアート・ペッパー自身の可能性の具現化でもあるのです。ここが『ザ・トリップ』の最小公倍数!
 そして忘れずに絶賛しなければならない(これは義務であり責任です)ジョージ・ケイブルスエルビン・ジョーンズの強烈なバック・アップが『ザ・トリップ』の最大公約数!

THE TRIP-2 『ザ・トリップ』は“甘い”白人のイケ面貴公子だったアート・ペッパーが“渋い”よれよれのアメリカ・インディアン然とした,しわくちゃのCDジャケットが暗示する「年輪」なのであります。

 『ザ・トリップ』は重音の絶叫系なのであります。テナー・サックスのようなアルト・サックスは“マイ・フェイバリット”なケニー・ギャレットの師匠のようであります。音が“こぼれだして”います。胸が“キュン”と締め付けられて苦しくなってしまうのです。

 ああ〜,どうにも長くなる。後半ロスタイムから語り出しても『ザ・トリップ批評は長くなる〜。
 そこで「アムロ行きます」。ドロー狙いの自陣でのパス回し時の決めゼリフ → 管理人の結論。『ザ・トリップ批評

 『ザ・トリップ』での“熱くドロドロとした”アルト・サックスアート・ペッパーの「アナーキーな人生」そのもの。『ザ・トリップ』でのアート・ペッパーは,彼が「渡り歩いた人生」を背負って吹いている。時に吠えまくり,時に祈りを唱えてでもいるかのように…。

  01. THE TRIP-Orig.Take
  02. THE TRIP-Alt.Take
  03. A SONG FOR RICHARD
  04. SWEET LOVE OF MINE
  05. JUNIOR CAT
  06. THE SUMMER KNOWS
  07. RED CAR

(コンテンポラリー/CONTEMPORARY 1976年発売/VDJ-1583)
(ライナーノーツ/岩浪洋三,エド・ミッシェル)

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