NEW JAZZ CONCEPTIONS-1 ビル・エヴァンスの“地味な”デビューCDNEW JAZZ CONCEPTIONS』(以下『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』)は,瑞々しくも斬新なコンセプトで練り上げられた,正に『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』なピアノ・トリオが響いている。

 『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』を聴いて,まず沸き上がってくる感情の第一声は「ビル・エヴァンスよ,よくぞ独自路線に踏みとどまってくれました」の思いである。
 事実『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』でのビル・エヴァンスは「この先,どっちに転ぶか分からない」アイデンティティのジャズ・ピアノを弾いている。
 そう。『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』の印象は“新世代のバップ・ピアニスト”のデビュー盤。「バップなピアノが新しくなったなぁ〜」程度の印象であって,今後,ジャズ・ピアノに革命を起こす最重要人物のデビュー盤とは予想できないのであるが…。

 ズバリ『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』の聴き所は,後にビル・エヴァンス生涯のレパートリーとなる【ワルツ・フォー・デビイ】と【マイロマンス】でのソロ・ピアノ
 ほんの1分17秒で終わった(終わざるを得なかった)【ワルツ・フォー・デビイ】&ほんの1分58秒で終わった(終わざるを得なかった)【ワルツ・フォー・デビイ】。しかし,テーマの弾き加減は“秀逸”である。メロディアスなロマン主義〜。

 つまりはこういうことだ。『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』時点でのビル・エヴァンスは,この2トラックのテーマ部以外は思案中。まだテーマをハイライトとしてイントロやBメロ聴かせる才能は発展途上。ピアノソロで聴かせるには2分弱が限界だった?

 そう。ビル・エヴァンスの個性とは単純に「テーマ弾き」であると思うのだが,この「テーマ弾き」を侮るなかれ。ビル・エヴァンスというジャズ・ピアニストは,そんじょそこらの「テーマ弾き」にはない“強烈なパワー・プレイ”が音を立てずに襲ってくる。← この音楽なのに「音を立てずに」という矛盾がミソ。

 ビル・エヴァンスというピアニストは,単なる優美さや繊細さだけで語られる存在ではなく,確固とした強靭さをも併せ持っている。きっぱりとして凛としている。「メチャメチャ我が強い」のが透けて見える。柔らかい印象の外見に似合わず,熱いハートの“ジャズメン魂”に突き動かされた「真に生真面目な暴れん坊」なのである。
 そんな創造のマグマが内に向かっているのがいいんだよなぁ。噴火しても安心な活火山なんだよなぁ。

NEW JAZZ CONCEPTIONS-2 ゆえに,すでに曲として完成されていた【アイ・ラヴ・ユー】や【スピーク・ロウ】ではベーステディ・コティックドラムポール・モチアンとのピアノ・トリオは歌えている。
 「テーマ弾き」としてのスタンスを崩さずに“新世代のバップ・ピアニスト”らしいアドリブ・ラインがリズミック。このバップなノリと曲の構成を分析しトータル・コーディネートのアクセントしてのアドリブ。この波長が調和するから美しいんだよなぁ。

 ケチをつけるつもりで書き始めたのに,結局は好きなんだよなぁ。『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』が“地味に”好きなんだよなぁ。

  01. I LOVE YOU
  02. FIVE
  03. I GOT IT BAD AND THAT AIN'T GOOD
  04. CONCEPTION
  05. EASY LIVING
  06. DISPLACEMENT
  07. SPEAK LOW
  08. WALTZ FOR DEBBY
  09. OUR DELIGHT
  10. MY ROMANCE
  11. NO COVER, NO MINIMUM (take 2)
  12. NO COVER, NO MINIMUM (take 1)

(リバーサイド/RIVERSIDE 1956年発売/VICJ-60350)
(ライナーノーツ/オリン・キープニュース,小西啓一)
(紙ジャケット仕様)

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