THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD 1961-1 ビル・エヴァンスは100枚以上の公式アルバムを残しており,そのどれもが興味深い演奏ばかりであるのだが,いつでも真っ先に取り出したくなるのが『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』+『ワルツ・フォー・デビイ』+アンドモア=『THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD』BOXセット〜!

 あらゆる好条件が揃って産み落とされた歴史的名盤である。コンスタントに記録を残すスポーツ界の名選手であっても毎回世界記録が出せないのと同じように,高水準のアルバムを連発するジャズ・ジャイアントであったとしても,最高の即興演奏を毎回レコーディングできるものではない。
 その意味で『THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD』は音楽の神様が与えてくださった「奇跡の結晶」であろう。
 (ただしこの気負いのなさ。ビル・エヴァンスにとっては日常のヒトコマの記録であった? やっぱり幸運! だから神様!)

THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD 1961-2 ピアノビル・エヴァンスベーススコット・ラファロドラムポール・モチアンからなるビル・エヴァンストリオ

 かってポール・モチアンが,当時の黄金トリオを振り返って「何か新しい可能性を感じた。これだ!って演奏中に何度思ったかしれやしない。今日はどこまでこのトリオで行けるんだろうって演奏する前は当事者の自分たちがワクワクしていたほどさ。それくらいあのトリオは音楽的に充実していたし,互いを分かりあえていた。こんな気持ちで演奏ができたことは後にも先にもないからね。特別な場所に特別な人たちがものの見事にはまったっていううことかな。やっている自分たちの方が怖いものを感じた」と述べている。

 これがマイルス・デイビスの死後,長らく空位となっていた「ジャズの帝王」の座に鎮座したポール・モチアンの言葉である。
 あのポール・モチアンをして,唯一無二の時間を過ごしたと言わしめた“創造の絶頂期”。それがビル・エヴァンスの黄金トリオによるビレッジ・バンガードでのライブであった。

THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD 1961-3 『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』の2枚のアルバムでビレッジ・バンガードでのライブを通過してきたエヴァンス・ファンにとって新鮮な理解の感動に圧倒されてしまう。

 時系列順にあの夜の演奏を聴き続けるという行為に意味があるとすれば,このBOXセットを聴いた後に『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』を聴き返した瞬間に感じる快楽と後悔であろう。全てを知った瞬間に背負う重荷も存在するのだ。
 それは概ね「編集の恐ろしさ」という言葉に尽きると思う。化粧を落としたビル・エヴァンストリオの素顔を見てマニアは一体何を思うことだろう?

THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD 1961-4 管理人は『THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD』BOXセットを聴いて,2つの点を強く意識できるようになった。

 その1つは『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』でのフィーチャリングを凌ぐベーススコット・ラファロの“天才”であり,もう1つは客の不入りとグラス・ノイズに代表されるビル・エヴァンスの“不遇”である。

THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD 1961-5 マックス・ローチクリフォード・ブラウンを自動車事故で失った時に,しばらく仕事をしたくない,と語ったが,スコット・ラファロをこれまた同じ自動車事故で亡くしたビル・エヴァンスが語っている。

 ジャズメンは,実に多くの演奏家と共演を繰り返しているが,真に“魂の共鳴する”相手に巡り逢うのは稀有なことである。ビル・エヴァンスとってのスコット・ラファロが正にそうであった。
 ビル・エヴァンスにとってスコット・ラファロは生涯に一度しか出会うことのない唯一無二の共演者であり,スコット・ラファロベースによる啓発によってビル・エヴァンスが“覚醒”されていく過程のドキュメンタリーになり得ていると思う。

THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD 1961-6 そしてコンプリート盤ゆえの聴き所であろう“ゴミ”の存在である。元々観客が少ないことは明らかであったが,この演奏前後の場の空気を通じて真剣に演奏が聴かれていないことが一層浮き彫りにされている(何と勿体ない!)。

 ビル・エヴァンスの“不遇”。それは食事中の客,談笑する客,電話中の客に向けて演奏しなければならなかったという事実。お願いです。あの夜のクラブ客の中に熱心なジャズ・ファンが一人でもいてください。ウソでもいいから一人でもいたと信じさせてください。
 そうでないとビル・エヴァンスが浮かばれません。あの夜,ビル・エヴァンスは一体誰に向かって美しいピアノを奏でていたのでしょう。不憫でなりません。

THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD 1961-7 『THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD』BOXセットの真実。それは『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』の“剥き出しの”演奏集。

 1961年7月25日に行なわれた全5ステージのノーカット演奏。一晩で22曲ものインタープレイを演奏したのだから疲れに疲れたに違いないが,演奏はその逆である。アドレナリン出まくりで神懸り的に突き抜けていく。
 ビル・エヴァンスよ,ドラッグなしでもハイになれるじゃないか!

THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD 1961-8 ステージが進むにつれ,ビル・エヴァンスの,スコット・ラファロの,ポール・モチアンの感動が音の表情から伝わってくる。「何て素晴らしい演奏なんだろう。もっと…長く…いつまでも…演奏し続けていたい」。
 このライブこそが“伝説”である。このライブこそが“夢”である。

 『THE COMPLETE LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD』はマニア向けの日本独自企画盤ゆえ『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』の2枚を所有していれば音楽的には十分であろう。しかしそれ以上!を求めるのであれば絶対購入BOXセット3枚組!
 ビル・エヴァンスが見た夢の続きを共に見ようではないか! 共に伝説に参加しようではないか! そして,あぁ,ラファロよ!

  DISC 1
  Afternoon Set 1
  01. spoken introduction
  02. GLORIA'S STEP (take 1-interupted)
  03. ALICE IN WONDERLAND (take 1)
  04. MY FOOLISH HEART
  05. ALL OF YOU (take 1)
  06. announcement and intermission
  Afternoon Set 2
  07. MY ROMANCE (take 1)
  08. SOME OTHER TIME
  09. SOLAR

  DISC 2
  Evening Set 1
  01. GLORIA'S STEP (take 2)
  02. MY MAN'S GONE NOW
  03. ALL OF YOU (take 2)
  04. DETOUR AHEAD (take 1)
  Evening Set 2
  05. discussing repertoire
  06. WALTZ FOR DEBBY (take 1)
  07. ALICE IN WONDERLAND (take 2)
  08. PORGY (I LOVES YOU, PORGY)
  09. MY ROMANCE (take 2)
  10. MILESTONES

  DISC 3
  Evening Set 3
  01. DETOUR AHEAD (take 2)
  02. GLORIA'S STEP (take 3)
  03. WALTZ FOR DEBBY (take 2)
  04. ALL OF YOU (take 3)
  05. JADE VISIONS (take 1)
  06. JADE VISIONS (take 2)
  07. ...a few final bars

(リバーサイド/RIVERSIDE 2002年発売/VICJ-60951-3)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)
(CD3枚組)

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