
しかしビル・エヴァンスの特徴である“内省的なハーモニー”を高く評価するファンとしては,ビル・エヴァンスの持ち味が最大限生かされるソロ・ピアノ・フォーマットを聴いてみたい。そんな願いが自然と湧き上がるのである。
エヴァンスからの答えは存在する。『アローン』ではない。『ALONE AGAIN』(以下『アローン(アゲイン)』)を聴け! このこぼれ落ちそうなリリシズム!
これこそがビル・エヴァンスの個性。ピアノ・トリオで聴こえるビル・エヴァンスがソロ・ピアノでも聴こえてくる。ついに念願の大満足なソロ・ピアノ作が完成したのだ。
駄盤『アローン』から名盤『アローン(アゲイン)』までに7年。この7年間でビル・エヴァンスのピアノが変化している。キーワードは『対話』である。『自己との対話』である。
ビル・エヴァンスが名盤を産み落とす時には,いつでもインタープレイ=音楽で対話が出来た時である。つまりビル・エヴァンスのピアノでのメッセージを受け止めてくれる共演者,ビル・エヴァンスが全幅の信頼を置いて身を委ねることができる共演者が必要であった。
ソロ・ピアノでは話相手がいない。『アローン』でのビル・エヴァンスは人ではなくピアノに語りかけていた。そして『アローン(アゲイン)』ではピアノではなく“もう一人の自分”に語りかけている。だから『自己との対話』なのである。
ビル・エヴァンスにとって『自己との対話』はアルバム『自己との対話』で経験済。
そう。真の意味で『自己との対話』が完成したのはアルバム『自己との対話』ではなく『アローン(アゲイン)』だと思う。ビル・エヴァンスは『アローン(アゲイン)』でピアノを「客観視しつつも直視する術」を獲得したのだと思う。

あの,はっきりとは告げられぬ,形のない,なまめかしい,当時のビル・エヴァンスの病的な美しさ,官能的なリリシズムの極致を,あやうくピンでとめることに成功した決定的名演はビル・エヴァンス本人をして“再演不能”と言われている。
『アローン(アゲイン)』の儚さは【PEACE PIECE】の儚さに通じている。『アローン(アゲイン)』の儚さはビル・エヴァンスの悲しみである。
共演者との「対話」もなしに,偶然ではなく意識的に自己完結する術を身に着けてしまった悲しみである。音楽を創造する喜びを共有できる相手がいないことの悲しみである。
『アローン(アゲイン)』が,時に丸く温かいフレージングで満ちているのはその反動なのであろう。
偶然ではなく意識的に【PEACE PIECE】が形を変えて再演されてしまった。そう。『アローン(アゲイン)』によって…。
『アローン(アゲイン)』を聴け! このこぼれ落ちそうなリリシズムを聴け! お願いだから聴いてくれ!
01. THE TOUCH OF YOUR LIPS
02. IN YOUR OWN SWEET WAY
03. MAKE SOMEONE HAPPY
04. WHAT KIND OF FOOL AM I
05. PEOPLE
06. ALL OF YOU
07. SINCE WE MET
08. MEDLEY:
BUT NOT FOR ME〜ISN'T IT ROMANTIC〜THE
OPENER
(ファンタジー/FANTASY 1977年発売/VICJ-60179)
(ライナーノーツ/青木和富)
(ライナーノーツ/青木和富)
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