I WILL SAY GOODBYE-1 「歴史上一番時間をかけた自殺」を遂げたビル・エヴァンスによる“死への3部作”=『I WILL SAY GOODBYE』『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』『WE WILL MEET AGAIN』。

 『I WILL SAY GOODBYE』(以下『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』)の“GOODBYE”が,果たして誰に向けられた言葉なのかは定かでないが『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』は,死を明確に意識したビル・エヴァンスからのダイニング・メッセージである。そう管理人が強く思う理由がある。

 CD時代以後『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』を聴いたビル・エヴァンス・ファンには分からないかもしれないが,管理人は『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』を最初にLPで買った。
 昨今の発掘音源時代であれば特に珍しくもない別テイクであるが,非常に珍しいこととして『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』にはA面の1曲目に【I WILL SAY GOODBYE】が,そしてB面の1曲目に【I WILL SAY GOODBYE】の【TAKE 2】が入っていた。そう。敢えて【TAKE 2】もオリジナル音源の一部としての発表であった。

 管理人は2つの【I WILL SAY GOODBYE】の存在に,ビル・エヴァンスからのダイニング・メッセージを強く意識する。
 なぜなら『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』のA面をかけてもB面をかけても,リスナーは必ず【I WILL SAY GOODBYE】に耳を傾ける“仕掛け”になっている。
 つまり,ビル・エヴァンスが『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』で伝えたかった“魂の言葉”は2つの【I WILL SAY GOODBYE】の演奏の中に込められていると思うのだ。

 【I WILL SAY GOODBYE】で響くビル・エヴァンスピアノが“孤独”である。事実,長年の女房役であったエディ・ゴメスとの“すき間風”を感じさせる。
 それ位【I WILL SAY GOODBYE】におけるビル・エヴァンスは今まで以上に“内省的なピアノ”を弾きまくる。

 そう。ビル・エヴァンスからの真のダイニング・メッセージは,アルバム・タイトル=『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』でも,トラック名=【I WILL SAY GOODBYE】でもない。全ては言葉ではない。ビル・エヴァンスジャズ・ピアノの“孤高の美しさ”といったら…。
 『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』の底流に流れる淋しさや,触れれば壊れてしまいそうな“繊細な響き”が“孤独”なのである。ビル・エヴァンスはそんなどうしようもない“孤独感”から逃避するために鍵盤に向かっている。そんな趣きを感じるのである。

I WILL SAY GOODBYE-2 そう。ビル・エヴァンスピアノから牙が抜かれている。いつもの勝ち気で男勝りで攻撃的な硬質のピアノ・タッチが全て“丸味”を帯びている。粗が削られ角バリが取られている。

 ビル・エヴァンスピアノが最高度に美しい。こんな皮肉な結果があってよいものだろうか? 『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』の全ては,生へのやるせなからピアノに向かうしかなかったビル・エヴァンスの“孤独”な演奏に尽きる。

 ビル・エヴァンスさん,あなたの居場所は,誰にも邪魔されない居場所はピアノのレギュラー・シートでした。ピアノだけは決してあなたを裏切ったりしない。だから…。

  01. I WILL SAY GOODBYE
  02. DOLPHIN DANCE
  03. SEASCAPE
  04. PEAU DOUCE
  05. NOBODY ELSE BUT ME
  06. I WILL SAY GOODBYE (TAKE 2)
  07. THE OPENER
  08. QUIET LIGHT
  09. A HOUSE IS NOT A HOME
  10. ORSON'S THEME

(ファンタジー/FANTASY 1980年発売/UCCO-90131)
(ライナーノーツ/岡崎正通)
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