
録音順から行けば『I WILL SAY GOODBYE』『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』『WE WILL MEET AGAIN』の順であるが,リリースされたは『I WILL SAY GOODBYE』『WE WILL MEET AGAIN』『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』の順となる。
そう。『WE WILL MEET AGAIN』(以下『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』)こそが,ビル・エヴァンス「生涯最期のスタジオ録音盤」なのである。
『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』は,ビル・エヴァンス・トリオ+2管のクインテット編成。余りにも有名なベースのマーク・ジョンソン,ドラムのジョー・ラバーベラを擁する通称“ラスト・トリオ”によるスタジオ録音は残されていない。
なぜビル・エヴァンスはラスト・トリオでのスタジオ録音を吹き込まなかったのか? その理由こそラスト・トリオだからこそ,となるであろう。
ビル・エヴァンスはラスト・トリオに絶対の自信があったがゆえに,敢えて“人生の宿題”であったクインテット編成での名盤を残そうと考えたように思う。
ビル・エヴァンスの名立たる名盤は全てソロかデュオかトリオ・フォーマット。クインテット盤は『INTERPLAY』があるくらいだが『INTERPLAY』は「水準レベルな異色盤」にすぎなかった。
ビル・エヴァンスの胸の内でも,前作『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』に確かな手応えを感じていたのかもしれない。
ラスト・トリオを以てしても,恐らくは『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』は超えられない。ビル・エヴァンス“栄光の”ピアノ・トリオは『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』で終着駅へと辿り着いた。『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』でビル・エヴァンスのピアノ・トリオは“灰”となったのだ。
“死への3部作”の最終作=『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』は,廃人と化したビル・エヴァンスが,最期のエネルギーを爆発させて死へ向かう“ろうそくの炎”そのものである。消え去る前のほんの一瞬,ワッと燃え盛る“死の直前の輝き”である。
『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』が「水墨画」であるならば『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』は「カラー写真」である。ビル・エヴァンスの「生命力」をどうにもこうにも感じてしまうのである。大袈裟に言えば,このクインテットが発散するエネルギーは,全エヴァンス作品中“最強レベル”に達している。ビル・エヴァンスが“躍動的な創造力”を完全に取り戻している。

海と空を臨む青の遺跡風のジャケットは,門の向こう側が清浄な天国で手前側が現生のようである。ビル・エヴァンスの天国へのチャレンジは『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』で完了した。
「私はソロかデュオかトリオだけのピアニストではないよ。クインテットもいいものがあるんだよ」。そう言い残してビル・エヴァンスは「天国への門」を越えてしまうのであった…。
しかし,しかしビル・エヴァンスさん,忘れ物がありますよ〜。『WE WILL MEET AGAIN』の真実は残念ながら『INTERPLAY 2』でした。
今すぐ出でよ!表われよ! ビル・エヴァンスの生まれ変わりであるエヴァンス派の猛者たちよ! 『WE WILL MEET AGAIN 2』を制作せよ!
01. COMRADE CONRAD
02. LAURIE
03. BILL'S HIT TUNE
04. FOR ALL WE KNOW (WE MAY NEVER MEET
AGAIN)
05. FIVE
06. ONLY CHILD
07. PERI'S SCOPE
08. WE WILL MEET AGAIN
(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1980年発売/WPCR-13178)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)
(☆SHM−CD仕様)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)
(☆SHM−CD仕様)
(紙ジャケット仕様)
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