RE:PERSON I KNEW-1 ビル・エヴァンスの死後,追悼盤としてリリースされた『RE:PERSON I KNEW』(以下『リ・パーソン・アイ・ニュー』)は既発公式盤=『シンス・ウィ・メット』と対を成す1974年1月に行なわれた“聖地”「ヴィレッジ・ヴァンガード」におけるライブ盤。

 そう。『シンス・ウィ・メット』と『リ・パーソン・アイ・ニュー』は1974年盤『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』と言い切ってもよい。
 「ヴィレッジ・ヴァンガード」という同じ舞台でスコット・ラファロポール・モチアン相手に繰り広げられたインタープレイが,今度はエディ・ゴメスマーティ・モレル相手に繰り広げられている。
 『シンス・ウィ・メット』と『リ・パーソン・アイ・ニュー』への低評価は「時代錯誤」なだけであろう。

 『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』がスコット・ラファロポール・モチアンラストライブであったと同じように『シンス・ウィ・メット』と『リ・パーソン・アイ・ニュー』もエディ・ゴメスマーティ・モレルラストライブ
 つまり,その時代のビル・エヴァンストリオの“完成形”が鳴っている。トリオとして「何をすばきか,何をすべきでないか」の約束事が熟成されている。それでいて3人が対等。久しぶりにメンバーの力関係が拮抗したトリオで聴き応えがある。

 『シンス・ウィ・メット』は“叙情派”としてのビル・エヴァンスの個性が色濃く表われたセットリストであったが『リ・パーソン・アイ・ニュー』は“エディ・ゴメスマーティ・モレル”の個性が色濃く表われたセットリストである。
 エディ・ゴメスも個性的な名演を繰り広げているが(エディ・ゴメスは在籍期間が長いという理由で)管理人は『リ・パーソン・アイ・ニュー』の主役にマーティ・モレルドラムを指名する。

 基本,マーティ・モレルドラムはやたらと鼻に突く。せっかちで出しゃばりすぎるきらいがある。しかしそれはスタジオ盤でのお話。ライブにおけるマーティ・モレルドラムは神!
 ポール・モチアンとは“真逆のアプローチ”でビル・エヴァンスの演奏を後押ししている。ドラムでイマジネーションを示している。
 強烈なシンバルと繊細なブラシ。神の手によるシンバル・ワークが並はずれて多弁なテクニシャン=エディ・ゴメスとシンクロした瞬間の快感はライブならではの醍醐味だと思う。

RE:PERSON I KNEW-2 ただし管理人はベタボメはできない。『リ・パーソン・アイ・ニュー』におけるビル・エヴァンストリオは「テクニック的に」は最高レベルだが「ビル・エヴァンス的に」どうかというと“らしさ”の薄い“第三次トリオ”と表現するしかないのかなぁ。

 エディ・ゴメスマーティ・モレルは2人とも「フォルテ」「フォルテシモ」であり,ビル・エヴァンスが「フォルテ」「フォルテシモ」の場合はスコット・ラファロポール・モチアンと同格であるが,ビル・エヴァンスは「ピアノ」「メゾピアノ」の達人でもあるわけだし…。

 とはいえ『シンス・ウィ・メット』と『リ・パーソン・アイ・ニュー』を『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』より上だと主張するエヴァンス・ファンがいたとしても異論はない。高度なピアノトリオを演っている。単純に好みの問題だと思う。

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(ファンタジー/FANTASY 1981年発売/VICJ-60175)
(ライナーノーツ/佐藤秀樹)

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