
そう。『シンス・ウィ・メット』と『リ・パーソン・アイ・ニュー』は1974年盤『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』と言い切ってもよい。
「ヴィレッジ・ヴァンガード」という同じ舞台でスコット・ラファロ+ポール・モチアン相手に繰り広げられたインタープレイが,今度はエディ・ゴメス+マーティ・モレル相手に繰り広げられている。
『シンス・ウィ・メット』と『リ・パーソン・アイ・ニュー』への低評価は「時代錯誤」なだけであろう。
『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』がスコット・ラファロ+ポール・モチアンのラスト・ライブであったと同じように『シンス・ウィ・メット』と『リ・パーソン・アイ・ニュー』もエディ・ゴメス+マーティ・モレルのラスト・ライブ。
つまり,その時代のビル・エヴァンス・トリオの“完成形”が鳴っている。トリオとして「何をすばきか,何をすべきでないか」の約束事が熟成されている。それでいて3人が対等。久しぶりにメンバーの力関係が拮抗したトリオで聴き応えがある。
『シンス・ウィ・メット』は“叙情派”としてのビル・エヴァンスの個性が色濃く表われたセットリストであったが『リ・パーソン・アイ・ニュー』は“エディ・ゴメス+マーティ・モレル”の個性が色濃く表われたセットリストである。
エディ・ゴメスも個性的な名演を繰り広げているが(エディ・ゴメスは在籍期間が長いという理由で)管理人は『リ・パーソン・アイ・ニュー』の主役にマーティ・モレルのドラムを指名する。
基本,マーティ・モレルのドラムはやたらと鼻に突く。せっかちで出しゃばりすぎるきらいがある。しかしそれはスタジオ盤でのお話。ライブにおけるマーティ・モレルのドラムは神!
ポール・モチアンとは“真逆のアプローチ”でビル・エヴァンスの演奏を後押ししている。ドラムでイマジネーションを示している。
強烈なシンバルと繊細なブラシ。神の手によるシンバル・ワークが並はずれて多弁なテクニシャン=エディ・ゴメスとシンクロした瞬間の快感はライブならではの醍醐味だと思う。

エディ・ゴメスとマーティ・モレルは2人とも「フォルテ」「フォルテシモ」であり,ビル・エヴァンスが「フォルテ」「フォルテシモ」の場合はスコット・ラファロ+ポール・モチアンと同格であるが,ビル・エヴァンスは「ピアノ」「メゾピアノ」の達人でもあるわけだし…。
とはいえ『シンス・ウィ・メット』と『リ・パーソン・アイ・ニュー』を『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』と『ワルツ・フォー・デビイ』より上だと主張するエヴァンス・ファンがいたとしても異論はない。高度なピアノ・トリオを演っている。単純に好みの問題だと思う。
01. RE: PERSON I KNEW
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06. 34 SKIDOO
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08. ARE YOU ALL THE THINGS
(ファンタジー/FANTASY 1981年発売/VICJ-60175)
(ライナーノーツ/佐藤秀樹)
(ライナーノーツ/佐藤秀樹)
コメント
コメント一覧 (6)
『サムホエア』。久々にKOされてしまいました。是非,早く聴いてください。そしてKOされてください。何だか大感動で泣けてきます。
キースが絶好調なのは勿論ですが,ゲイリーの調子が最高でして,デジョネットもいい感じ。もはやこの3人でなければならない必然性を感じるのです。
キース・ジャレット・トリオに駄盤などないのですが,いつもは上の中どまりなのに『サムホエア』は上の上です。初期のスタンダーズ・トリオ名義に加えて『アット・ザ・ディア・ヘッド・イン』『ウイスパー・ノット』『マイ・フーリッシュ・ハート』級の完璧な演奏ですよ〜。
『サムホエア』を聴かれましたら,和仁さんの感想も教えてください。個人的にはヨーロピアンの『スリーパー』も大好きです。でも「トリオこそが最強」に落ち着きそうな雰囲気です。
中古でも、キースの新譜は見かけたのですが、また今度と見送ってしまいました。キースのデータに関しては、『ジャズCD個人のページ』のレビューが凄いですね。バッハなどのクラシックもののアルバムも網羅していますし。
今回のレビューの『Re: Person I Knew』も含め、70年代の後期エヴァンスは、人に勧めるとなると微妙なアルバムが多い気がします。タワレコ企画の『Everlasting 〜Bill Evans All Time Best』などというベスト盤は別ですが。この頃のアルバムで好きなものですと、『Half Moon Bay』(1973)ぐらいですね。
エヴァンスは、後の発掘音源なども含めると、70-80枚ほど持っていますが、トニーベネット、ゲッツとの70年代の録音、ラストトリオのライブのBoxはまだ聴いていないです。オスカー ピーターソンなども70枚ぐらいですね。
エヴァンス80枚は凄いですね。私なんかホームズさんの半分しか聴いていません。なのに分かったふりしちゃってハズカシイ。やはり音楽批評の質は基本的には量に比例しますから。
確かにエヴァンスの70年代は微妙です。決して悪くはないのですが人に勧めるとなると引け目を感じてたじろいでしまったり。
ピーターソンの70枚も凄いですね。ピーターソンはエヴァンスやキースと違ってどのアルバムでも推薦できますねっ。
やっぱり。和仁さんと私はキースへの思いが似ています。最初に和仁さんからキースの話を振られた時のことを覚えています。私がキース・マニアだなんて一言も言ったことなかったのに。
そんなこんなで今でも和仁さんと同じ感覚でキースを聴けていることがうれしいです。
尤も好みはいつでも違いますよね。私の『サムホエア』の一番は【サムホエア〜エヴリホエア】におけるキースの左手でのコンピングです。こんなジャズ・ピアニストは他にいません。キースこそ未だに世界一です。【ソーラー】で言えば,最初のソロ〜ゲイリーとデジョネットが入ってくるところです。これが本当に打ち合わせなしで絡んでいるのだから凄すぎる。一気にトリップします。
私も雑食系でいろいろなものを聴いていますが,やっぱり私のホームはキースだな,を実感しました。ソロは覚悟が必要なので年に数回しか聴いていませんがトリオとかアメリカンとかヨーロピアンはいつでも聴いています。その中で唯一新作を聴けるトリオのありがたさ。来日はなくなってもアメリカだけのいいです。末永くレコーディングを続けてほしいと切に願っています。