
『THE PARIS CONCERT EDITION TWO』(以下『パリ・コンサート 2』)の主役は,いつにも増してアグレッシブなビル・エヴァンスのジャズ・ピアノ。
ピアノの音色がクリアーに澄み切っており,何か「悟り」にも似たものを感じてしまう。「もう迷うことはない。力いっぱいやるだけだ」。死への決意を固めたかピアノが天国へ向かって飛翔する。
そう。ビル・エヴァンスはラスト・トリオで,ついに理想の音楽へと辿り着いたのだと思う。『パリ・コンサート 2』における“ためらいのない”ピアノ・タッチが澄み切った音色に表われている。「迷いのない」アドリブに表われている。
ゆえに『パリ・コンサート 2』を聴き終えると,いつでも爽やかになる。ビル・エヴァンスのジャズ・ピアノが管理人の邪念を全て洗い流してくれる思いがするのだ。
ビル・エヴァンスと来るとスタジオ録音でのムッツリ・スケベな印象が強いのだが,管理人はビル・エヴァンスを聴き始めた友人に,マイルス・デイビスと同様,スタジオ盤とライブ盤は別物として切り分けて聴いてみることを奨めている。
ビル・エヴァンスのライブ盤はどれもスケベ丸出しの本性丸出し! 特に晩年は本能だけで演奏している雰囲気が有る!
『パリ・コンサート 2』のハイライト=【NARDIS】を聴いてみてほしい。【NARDIS】もビル・エヴァンス“生涯の愛奏曲”の一つであり,初演の『EXPLORATIONS』からどんどん演奏時間が長くなっていたのだが『パリ・コンサート 2』ではついに17分の超長尺! しかもテンポが早回しと来ている! もはや【NARDIS】特有の陰影などかき消された“バップ調”【NARDIS】の白眉なこと!
ピアノ・ソロで始まり,徐々に緊張感がエスカレートする激しく自由奔放な表現の後に顔を出す,三者一体となってのテーマが提示される瞬間の高揚感!その後始まる“饒舌な”ベース・ソロと“豪快な”ドラム・ソロがビル・エヴァンスのピアノ・ソロへのアンサー・フレーズがイッちゃっている! この異常な盛り上がりはピアノ・トリオの演奏レベルを凌駕した「気合注入型」の破壊力! 相当に凄い&迫力満点な“KO”【NARDIS】!

ビル・エヴァンスにとってアドリブとは何だったか? 幻想的なのに一切の抽象性を排除したアドリブ。そう。ビル・エヴァンスにとってアドリブだけが「生きている証し」だったのだと思う。
ビル・エヴァンスのメッセージを「的確に受け,的確に流した」マーク・ジョンソンとジョー・ラバーベラ擁するラスト・トリオ。こんなに深い部分でビル・エヴァンスと共鳴できたベーシストとドラマーは他にいない。
管理人は『パリ・コンサート 1』と『パリ・コンサート 2』に特別な位置を与えている。ビル・エヴァンスがそうであったように…。
『THE PARIS CONCERT』録音の10ヶ月後,ビル・エヴァンスは永眠する。死因は「肝硬変,気管支炎,出血性潰瘍」だったとされているが,果たして直接の死因は「歴史上一番時間をかけた自殺」である。
01. Re: Person I Knew
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03. Letter To Evan
04. 34 Skidoo
05. Laurie
06. Nardis
(エレクトラ/ELEKTRA 1984年発売/WPCR-75517)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)