
いや,ウソである。ビル・フリゼールのジャズ・ギターには,確かにジム・ホールやジミ・ヘンドリクスの香りもするが,基本はウェス・モンゴメリーの系譜に位置している。
しかしビル・フリゼールの音楽はジャズ・ギターというよりも,トランペットのマイルス・デイビスやテナー・サックスのソニー・ロリンズを聴いているようでもあるし,ジャズというジャンルを越えてブルースやロック,はたまたサーフィン・ミュージック,カントリー,レゲエの香りを感じてしまう“ウルトラ”雑食オールラウンダー!
管理人がビル・フリゼールを語るなら「チャーリー・パーカーのノートのオーネット・コールマンのサウンドを持つギタリスト」!
ビル・フリゼールの本質は“モダン・ジャズの創始者”チャーリー・パーカーと“ジャズの革命児”オーネット・コールマンのブレンドである。ただしブレンドの比率はチャーリー・パーカーとオーネット・コールマンを足しても40%。残りの60%の成分は解析不能である。
ビル・フリゼールは「一体どこから来て,一体どこへ迎おうとしているのか?」。チャーリー・パーカーで始まりオーネット・コールマンで変化を遂げて以来,長らく停滞していたジャズ・シーンのメジャー・バージョン・アップ。
ビル・フリゼールのギターには,ジャズ・シーンを一遍させてしまうだけの“メガトン・パワー”が秘められている。
管理人がここまでビル・フリゼールを買っている理由は,ビル・フリゼールがジャズ界きっての“不思議ちゃん”であるからだ。
とことん聴いてもよく分からない。全く分からないわけではないのだが,以前の常識から外れているので,どう受け止めていいのかが分からない。しかし確実に難解ではない。バックとも見事に調和している。かぁ〜。
ズバリ,ビル・フリゼールのアプローチはモダン・ジャズの世界に突如としてあらわれた“突然変異”のようなのだ。

聴けば分かるさ。何とも表現しようがない,この管理人のもどかしさが…。
『イン・ライン』は正統派のモロECMかぶりの王道ギター。実にクリアーである。しかし理路整然とした中で展開されているのは“狂言”のようである。明快なのに歪んでいる。
ビル・フリゼールのフレージングは実直極まりない。ビル・フリゼールはパット・メセニーやジョン・スコフィールドのようにアウトはしない。だから掴めそうななのに,その一歩手前で,でも絶対に掴みきれない揺らぎの歪み。
『イン・ライン』を聴いていると,どこかの宇宙空間に連れ去れるかのようである。意識はハッキリしている。宙に浮いた瞬間も覚えている。でも地面から一歩足が浮いた瞬間から,今自分がどこに浮いているのか記憶を失くしてしまう。
理解できるのはビル・フリゼールと2人して“歪み空間”に浮いている。その1点だけ。たとえ100回聴き込もうとも…。
01. Start
02. Throughout
03. Two Arms
04. Shorts
05. Smile On You
06. The Beach
07. In Line
08. Three
09. Godson Song
(ECM/ECM 1983年発売/UCCE-3018)
(ライナーノーツ/村井康司)
(ライナーノーツ/村井康司)