
ブルー・ミッチェルは自分の求めるサウンドのためならいつでも自分を無にすることができる。
そのような“縁の下の力持ち”的なジャズメンはブルー・ミッチェル以外にも数多くいるのだが,ブルー・ミッチェルが貴重なのは彼が“ジャズ・トランペッター”だからである。
ド派手で目立つハイノートのトランペットこそジャズの“王様”にして“花形楽器”である。“ブライトでまばゆい楽器”なのである。にもかかわらず「アンサンブル」を重視し,必要とあればいつでも自分を無にすることができる。
世評ではブルー・ミッチェルが,生涯随一に吹きまくっている,とされる典型的なハード・バップ作=『THE THING TO DO』(以下『ザ・シング・トゥ・ドゥ』)を聴いてみてほしい。
ブルー・ミッチェルがトランペットを吹きまくっている。しかし目立とう精神はない。「付かず離れず」の絶妙の距離感でトランペットを吹きまくっているのだ。
『ザ・シング・トゥ・ドゥ』の“鉄壁アンサンブル”の成功には共演者が長年演奏を共にしてきた仲間である点も大きいのだろう。
テナー・サックスのジュニア・クック,ベースのジーン・テイラーとはホレス・シルヴァー・クインテット時代からの盟友であり,そこへ準レギュラーのピアノのチック・コリアとドラムのアル・フォスターが参加している。
そう。アンサンブルが引き締まり,各自のソロには寛いだ雰囲気が漂っている中で,ブルー・ミッチェルが,生涯随一に吹きまくっている。ジャズ・トランペッターを“爽やかに”吹き切っている。覇気がみなぎっている。
全体に和気あいあいとしながらも,マジになるところはキッチリ決めて,何気に小技の応酬合戦? ブルー・ミッチェルとジュニア・クックがドライブしながら高みを目指している。
ジュニア・クックに“もたれかかった”ブルー・ミッチェルのアドリブが濃い! ずっと5速でのフルスロットル! 大変聴き応えがあるのに疲れない! 本気で楽しめる!

ズバリ,理由はチック・コリアである。ラテンなチック・コリアのジャズ・ピアノがホレス・シルヴァーではなくバド・パウエルを指向している。
今やジャズ・ピアノの“御三家”であるチック・コリアだが,デビュー当時のチック・コリアはハード・バップを“弾き倒し”つつモードではなくジャズ・ロック的なアプローチで仕上げている。
だから『ザ・シング・トゥ・ドゥ』におけるブルー・ミッチェルが“ガンガン”なんだなぁ〜。チック・コリア〜。
01. FUNGII MAMA
02. MONA'S MOOD
03. THE THING TO DO
04. STEP LIGHTLY
05. CHICK'S TUNE
(ブルーノート/BLUE NOTE 1964年発売/TOCJ-4178)
(ライナーノーツ/アイラ・ギトラー,上条直之,竹内祐一)
(ライナーノーツ/アイラ・ギトラー,上条直之,竹内祐一)
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