J5-1 日本一のトロンボーン奏者=向井滋春,シーンの最旬にして絶頂期を迎えたピアニスト大西順子,百戦錬磨なザ・プレイヤーズテナー・サックス奏者=山口真文,そしてNYのファースト・コールのリズム隊=ベースロドリー・ウィテカードラムグレゴリー・ハッチンソンによるセッション・アルバム=『J5』。

 このメンバー5人の選択が聴き込めば聴き込む程にハマッテいる。この5人の組み合わせこそ,向井滋春の魅力を引き出すための「ベストの布陣」であった。向井滋春ソロ名義の『J5』は,J−ジャズ史上指折りの“企画賞”ものの1枚だと思う。

 一般的にトロンボーンという楽器は,柔らかくまろやかな輪郭が特徴の音に厚みを加えるハーモニー担当。アドリブは出来てもリードはできない,というのが相場である。
 ゆえにジャズ・トロンボーンは「激薬」となる。徹底的にソリッドでアグレッシブで重くなる。ここがジャズメン=向井滋春を聴く最大の魅力であろう。

 そんな向井滋春が,こちらも“ビビッドな”ジャズ・ピアニスト大西順子と“タイマンを張った”のが“企画賞”『J5』の目玉!
 大西順子を批判するやからは『J5』での演奏を聴き逃しているのではあるまいか? 向井滋春と“タイマンを張りつつも”実に見事なバッキングでケンカ相手を立てている。ソロ名義の大西順子は“男”であるが,サイドメンの大西順子は“女”なのである。

 低音部を多用する不協和音的なテンションの混じる独特のコード感覚。タイトながらダイナミックにスイングするリズム…。
 女性に戻った?大西順子ジャズ・ピアノが渋い。終始自分を抑えつつも,ここぞの一発で放つ“大仰なアドリブ”で天下を取る! 大西順子の“100発100中の”アドリブが,ボディ・ブローからのアッパー・カットのような展開で全体の印象を決定付けている。大西順子ジャズ・ピアノ向井滋春ジャズ・トロンボーンを“尻に敷く”カカア天下の“ケンカ・セッション”!

J5-2 そう。『J5』の真のリーダーは大西順子であり向井滋春フィーチャリング・ゲスト! 「向井滋春 Jクインテット・フィーチャリング・大西順子」の真実とは「大西順子 Jクインテット・フィーチャリング・向井滋春」なのである。

 大西順子の計算されたバッキングに煽られまくった向井滋春の“飛翔っぷり”が超・最高! スパークするジャズ・トロンボーンが“すすり泣く”瞬間に見せた大西順子の“男の顔”がハイライト! 『J5』のハイライトは大西順子の時代の音! 向井滋春さん,ごめんなさい。

  01. ON REFLECTION
  02. SPIRITUAL CALLING
  03. STRETCH OUT
  04. SERENITY
  05. WOMAN CHILD
  06. MALDOROR
  07. BERLIN

(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 1994年発売/TOCJ-5557)
(ライナーノーツ/藤本史昭)

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