
しかし『ゼム・ダーティ・ブルース』の魅力を“ファンキー”の一言で表現するのは勿体ない! 『ゼム・ダーティ・ブルース』の魅力は“ファンキー”よりもアンサンブル!
…っていうか『ゼム・ダーティ・ブルース』は,同時期のキャノンボール・アダレイのアルバムの中では“ファンキー”度は薄いように思う。
…にも関わらず『ゼム・ダーティ・ブルース』の評価が突出しているのは【DAT DERE】【WORK SONG】の2大キラー・チューンの存在とアルバムの完成度! 可だけがあって不可のない全曲・名曲にして名演! 要はバランスの良さが突出している結果だと思う。
『ゼム・ダーティ・ブルース』の主役はキャノンボール・アダレイではなくナット・アダレイ。そう。ナット・アダレイの役所は『サムシン・エルス』におけるマイルス・デイビス。
ナット・アダレイのコルネットが本当にいいんだわ。しびれる。何がいいのか? それは音楽的だから。単純にファンキーでは済まされない,バンドとしての音楽的な深い理解を感じるのだ。『キャノンボール・アダレイ・イン・サンフランシスコ』の続編という意味でもマイルス・デイビスの影響を感じてしまう。
『キャノンボール・アダレイ・イン・サンフランシスコ』が大ヒットした多忙なツアー終了直後に突入した『ゼム・ダーティ・ブルース』のレコーディング。もう完璧にコンボが出来上がっている。
その証拠にレコーディングの途中でピアニストがボビー・ティモンズからバリー・ハリスに交代したが,その交代が面白いように演奏に表われている。
つまり裏返せばアルト・サックスのキャノンボール・アダレイ,コルネットのナット・アダレイ,ベースのサム・ジョーンズ,ドラムのルイス・ヘイスのメンバー4人の緊密な連動が揺るがない。素晴らしい音楽チームとしてキャノンボール・アダレイ・クインテットのアンサンブルが出来上がっている。

【THIS HERE】の続編であろうボビー・ティモンズの【DAT DERE】。“THIS IS FUNKY”ナット・アダレイの【WORK SONG】に加えて,サム・ジョーンズの【DEL SASSER】とキャノンボール・アダレイの【THEM DIRTY BLUES】。そして大好きな【JEANNINE】はメンバー外だがアダレイ兄弟の友人,デューク・ピアソン作の佳曲。
こんなに名曲がバンバン同時に湧き上がってくる,充実で豊作な,キャノンボール・アダレイ・クインテット。きっとメンバー5人の誰も耳にも共通イメージのバンド・アンサンブルが鳴っていたのだろう。何をやっても上手くゆく共通イメージがダイレクトに届けられている。
01. DAT DERE [Take 5]
02. DAT DERE [Take 3-previously unissued]
03. DEL SASSER
04. SOON
05. WORK SONG [Take 3-previously unissued]
06. WORK SONG [Take 4]
07. JEANNINE
08. EASY LIVING
09. THEM DIRTY BLUES
(リバーサイド/RIVERSIDE 1960年発売/VDJ-1598)
(ライナーノーツ/オリン・キープニュース)
(ライナーノーツ/オリン・キープニュース)