CONQUISTADOR!-1 前作『ユニット・ストラクチャーズ』で,フリージャズの頂点に達したセシル・テイラーがすぐさま動いた!
 『CONQUISTADOR!』(以下『コンキスタドール』)で,自らの手で完成させたフリージャズの“黄金スタイル”を自らの手でぶっ壊す!

 『CONQUISTADOR!』(以下『コンキスタドール』)には『ユニット・ストラクチャーズ』の名残のかけらもない。
 『ユニット・ストラクチャーズ』の“構造美”に対して『コンキスタドール』の真実とは“破壊の果ての混沌”である。何かが“轟音を立てて崩れていく音楽”なのである。

 『コンキスタドール』におけるセシル・テイラージャズ・ピアノは,見事な調和を聴かせた次の瞬間,バラバラになって砕け散ってゆく。そしてまた次の瞬間,表情の異なる見事な調和を聴かせては消えてゆく“音のスライム”!
 作っては消し→分裂→作っては消し→再生…。この一連の「スライムの陶器師」であるかのような“おまじない”に一体どんな意味があるのだろう?

 管理人には分からない。『コンキスタドール』を何十回と聴いてみたが分からない。多分100回聴いても分からないように思う。
 管理人に分かることがあるとすれば,それはセシル・テイラーが感じていたであろう“快楽”である。とにかく気持ちいい。このカオスに浴しているのが気持ちいいのだ。

 セシル・テイラーは『コンキスタドール』で,バンドを支配することを意識的に止めている。自分が作った枠だけが残る音の修羅場に,頭真っ白で,裸エプロンで乗り込んでいる。全てを知っているはずなのに,違う自分と共演してしまうような妙な感覚…。
 緻密で厳格で理知的,でも意外に軽やかで,壮大な緊張感に支配される集団即興演奏の領域にセシル・テイラーが初めて足を踏み入れている。

CONQUISTADOR!-2 ただし『コンキスタドール』におけるセシル・テイラーの破壊は,事前に計算された破壊であった。
 そう。ブルーノート名物のリサーサル! 初演のインパクトを取るか? テイク2の完成度を取るか?
 どちらにしてもセシル・テイラーは,冷静に理性的に,集団即興演奏を破壊へとリードしていく。
 
 分裂と再生を繰り返しながら崩壊を続ける,静から動へのダイナミクスの相当難解なアドリブ地獄を前にして,それでもあなたは『コンキスタドール』を言葉で説明しろと言いますか!

  01. CONQUISTADOR
  02. WITH (EXIT)

(ブルーノート/BLUE NOTE 1966年発売/TOCJ-4260)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,原田和典,エイヴリー・シャープ)

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