
なんたって,こちらも“早熟の天才”の代名詞的なウィントン・マルサリスが大絶賛したことで火がついて,そのウィントン・マルサリスを発掘したハービー・ハンコック,そのウィントン・マルサリスの兄=ブランフォード・マルサリス,そして中学生の管理人にとってジャズの全てであった渡辺貞夫とその周辺から上がる絶賛の嵐。
事実「ブラバス・クラブ’85」の主役は,渡辺貞夫を“喰った”チャーネット・モフェットであったのだから衝撃的!
パンチの効いた野太いライン。流れるようなランニング。粒の揃った音色のチャーネット・モフェットはデビュー当時16歳とか17歳。にわかに信じられない“新人類(この意味分かるかな?)”ジャズ・ベーシストの登場であった。
チャーネット・モフェットの資質を語る際にポール・チェンバースが引き合いに出されることが多いようだが,管理人が引き合いに出すならスコット・ラファロである。“早熟の天才”スコット・ラファロとチャーネット・モフェット。いつかこのテーマで「チャーネット・モフェット批評」を書きたいと思う。
チャーネット・モフェットのデビュー・アルバム『NET MAN』(以下『チャーネット・モフェット』)は, チャーネット・モフェットのアドリブが“徹頭徹尾”フィーチャリングされた“一発もの”の夢のアルバムである。
思わず「おおっ」と声が漏れてしまう。エレクトリック風味が混入されたエレアコ・ベースをガンガンに弾きまくる“あの時代”特有の大音量ベースが気持ち良すぎる。
『チャーネット・モフェット』における,全体のバランスを崩すほどに重心の低いベース・サウンドに快感を覚える理由は,複雑にして単純な“スイング”にある。
そう。チャーネット・モフェットの放つ,強烈なスイング感。この強烈なスイング感にウィントン・マルサリスが,ハービー・ハンコックが,ブランフォード・マルサリスが,渡辺貞夫が魅了された理由なのだ。

ゆえに「絶対君主」のウィントン・マルサリスは当然として,名アレンジャー=デヴィッド・マシューズ擁するマンハッタン・ジャズ・クインテットであってもチャーネット・モフェットを一時期手放さざるを得なかった。
そうこうしている間にチャーネット・モフェットと同タイプの,こちらも天才ベーシスト=クリスチャン・マクブライドが登場。
頑ななチャーネット・モフェットは「お役御免」とばかりに,チャーネット・モフェットと入れ替わったクリスチャン・マクブライドに美味しいところを根こそぎ持って行かれてしまった。
かっての“早熟の天才”も現在では“あの人は何処?”。
ベース・ラインが突出したバランスの悪さが足を引っ張り,あれだけの才能を持て余しているようで残念でならない。これも“時代”なのだろう。
01. MIZZOM
02. SWING BASS
03. ONE LEFT OVER
04. MONA LISA
05. THE DANCE
06. NETT MAN
07. SOFTLY AS IN A MORNING SUNRISE
08. FOR YOU
(ブルーノート/BLUE NOTE 1987年発売/CJ32-5001)
(ライナーノーツ/中山康樹)
(ライナーノーツ/中山康樹)