
いいや,もう一つ書かなければならない。チェット・ベイカーのボーカルがトランペットを吹くように聞こえ,チェット・ベイカーのトランペットがボーカルを歌うように聞こえる。もはや“楽器と声が一体化している”ように感じてしまう瞬間に何度も襲われてしまう。
この「唯一無二」なジャズ体験が,チェット・ベイカーのボーカルが「中性的」と表現される理由なのだろう(管理人的には「中性的」ではなく「青白い」と呼んでいる!)。
チェット・ベイカーのボーカル=「青白い」の呼称はこれから来ると思っているが?一般論の「中性的」の世評は“楽器と声が一体化している”の言葉足らずの結果生まれたものだと分析する。
そんな“歌うトランペッター”の多重録音盤にして,ボーカルに軸足を置いたアルバムが『CHET BAKER SINGS』(以下『チェット・ベイカー・シングス』)である。
“ヘタウマ”なボーカルで見事に感情を表現している! トランペットなしでも十分に“サムシング”が伝わってくる!

どうにもレンジの狭い音作りがチェット・ベイカーの意識を「内へ内へ」と向かわせている。その結果,退廃的で気怠い雰囲気のボーカルが耳元でささやいてくる。
チェット・ベイカー“生涯の代表曲”【MY FUNNY VALENTINE】における,原曲を崩すことなく歌い込む無表情で無機質で世紀末的なジャズ・ボーカル。マイクへ向かったあの瞬間のチェット・ベイカーの胸中は如何ばかり…。
01. THAT OLD FEELING
02. IT'S ALWAYS YOU
03. LIKE SOMEONE IN LOVE
04. MY IDEAL
05. I'VE NEVER BEEN IN LOVE BEFORE
06. MY BUDDY
07. BUT NOT FOR ME
08. TIME AFTER TIME
09. I GET ALONG WITHOUT YOU VERY WELL
10. MY FUNNY VALENTINE
11. THERE WILL NEVER BE ANOTHER YOU
12. THE THRILL IS GONE
13. I FALL IN LOVE TOO EASILY
14. LOOK FOR THE SILVER LINING
(パシフィック・ジャズ/PACIFIC JAZZ 1956年発売/TOCJ-6802)
(ライナーノーツ/岡崎正通)
(ライナーノーツ/岡崎正通)