
普段はふくよかな木管的な響きなのに,このアルバムだけはなぜだかカラッとした金管の音を出している。おまけにミュートまで吹いている。一体何があったのだろう?
答えはチェット・ベイカーと“同格”へと成長したラス・フリーマンのピアノ,と書けば単純なのだけど…。
さて,なぜにトランペットの音色のことを書いているかと言うと,管理人がチェット・ベイカーのことを語る場合,大抵,彼の音色の話をしているから。
チェット・ベイカーのトランペットの特徴と来れば,イチにもニにもあの音色。肩の力の抜けた「フッ」と吹き鳴らすスムーズなトランペット。大袈裟に言えばジャズとは最も遠いトランペット。
しか〜し,吹奏楽的で素直すぎるトランペットなはずなのに“強烈に”ジャズを感じさせてくれる。これって一体何だろう? チェット・ベイカーのトランペットの音色には,あの音色が聴こえてくるだけで“強烈に”ジャズを感じさせてくれるエモーショナルが含まれている。
だ・か・ら,チェット・ベイカーの普段のトランペットが鳴っていない『チェット・ベイカー=ラス・フリーマン・カルテット』に“違和感”を感じ取ってしまう。
チェット・ベイカーが“ムキムキ・マッチョ”に変貌してトランペットを吹き鳴らしている。「中性的」なイメージのチェット・ベイカーだが,こんなにも“男”だったのかっ!

しかし,生涯で唯一“らしさ”を捨てた『チェット・ベイカー=ラス・フリーマン・カルテット』における“異質”なトランペット。
曲もいい。演奏もいい。だけど,味の変わったラーメン屋へは自然と足を運ばなくなるように『チェット・ベイカー=ラス・フリーマン・カルテット』の素晴らしさを認めつつも,自然と手が遠のいてしまっていた。
久しぶりに聴いた『チェット・ベイカー=ラス・フリーマン・カルテット』は,ラス・フリーマン名義の大名盤であった。
誤解のありませんように。『チェット・ベイカー=ラス・フリーマン・カルテット』の演奏レベルはチェット・ベイカー史上最高レベルです。個人的に“ハードボイルド”な音色のチェット・ベイカーには関心がない人間なものでして…。
01. LOVE NEST
02. FAN TAN
03. SUMMER SKETCH
04. AN AFTERNOON AT HOME
05. SAY WHEN
06. LUSH LIFE
07. AMBLIN'
08. HUGO HURWHEY
(パシフィック・ジャズ/PACIFIC JAZZ 1957年発売/TOCJ-6872)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)