IT COULD HAPPEN TO YOU:CHET BAKER SINGS-1 『CHET BAKER & CREW』で“脱ウエスト・コースト宣言”を予告したチェット・ベイカーが,予告通りに活動の拠点を東へと移した一発目の『IT COULD HAPPEN TO YOU:CHET BAKER SINGS』(以下『イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー〜チェット・ベイカー・シングス』)。

 パシフィック・ジャズからリバーサイドへの移籍一発目は,レコード会社主導の『チェット・ベイカー・シングス』シリーズ・パート3でもあるかのような歌ものであった。
 しかもこの売り方がエグイ。この耳馴染みの選曲にしてこの月光メリーゴーランド風のジャケット写真。完全なる“アイドル歌手”としてのニューヨーク上陸であった。

 ズバリ『イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー〜チェット・ベイカー・シングス』は“ポップな”スタンダード集。“ポップな”スタンダード集にふさわしく,いつもの「青白い」歌声が「甘い」歌声に押し切られている。

 そうなった最大の理由はバック・サウンドの変化にある。ピアノケニー・ドリューベースジョージ・モロウサム・ジョーンズドラムフィリー・ジョー・ジョーンズダニー・リッチモンドによる「本物のハード・バップ」にバックでこれだけ歌われてしまえば「青白い」歌声だけでは対応できない。アドリブばりのスキャットで乗り切ろう〜?

IT COULD HAPPEN TO YOU:CHET BAKER SINGS-2 『イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー〜チェット・ベイカー・シングス』におけるチェット・ベイカーの変化はボーカルだけにとどまらずトランペットの演奏にも如実。ハードでエモーショナルなフレーズが間奏で織り交ぜられている。

 ジャズメンとしては小粒なのに“強烈な個性”で輝き続けるチェット・ベイカー。管理人はどちらかと言えば西海岸のチェット・ベイカーが好きなのだが,東海岸のチェット・ベイカーを体験したからこその「西海岸の良さ」なのである。

 ゆえにチェット・ベイカーの『シングス』シリーズを聴くお奨めのアルバム順は『チェット・ベイカー・シングス』からの『イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー〜チェット・ベイカー・シングス』からの『チェット・ベイカー・シングス・アンド・プレイズ』! 「青白い」歌声からの「甘い」歌声からの最後はストリングス締め!

  01. DO IT THE HARD WAY
  02. I'M OLD FASHIONED
  03. YOU'RE DRIVING ME CRAZY
  04. IT COULD HAPPEN TO YOU
  05. MY HEART STOOD STILL
  06. THE MORE I SEE YOU
  07. EVERYTHING HAPPENS TO ME
  08. DANCING ON THE CEILING
  09. HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON?
  10. OLD DEVIL MOON
  11. WHILE MY LADY SLEEPS (take 10)
  12. YOU MAKE ME FEEL SO YOUNG (take 5)

(リバーサイド/RIVERSIDE 1958年発売/VICJ-23589)
(ライナーノーツ/オリン・キープニュース,佐藤秀樹)

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