
『チェット』批評はチェット・ベイカーとビル・エヴァンスの“化学反応”を軸にレヴューするのが筋なのだが『チェット』を聴いた感想は『チェット』=チェット・ベイカーの「リーダー名義」。「ソロCD」と称しても過言ではない。
それくらいに『チェット』におけるチェット・ベイカーのトランペットが突出している。この一点でピアノのビル・エヴァンスとの共演が大成功だったということだ。
ソフトでまろやかで吹奏楽っぽいのに,これぞジャズ!としか言いようのないチェット・ベイカーのトランペット。この魅力をビル・エヴァンスのリリシズムが見事に引き出している。
ジム・ホールといい,キャノンボール・アダレイといい,チェット・ベイカーといい,スタンゲッツといい,トニー・ベネットといい,エディ・ゴメスといい,ビル・エヴァンスのデュエット作はその全てがジャズ史に残る名盤である。
…ということで管理人はビル・エヴァンスがチェット・ベイカーと共演した『チェット』も(デュオ作ではないが)名盤に認定する。
『チェット』は,チェット・ベイカーとビル・エヴァンスのデュオ名義となっているが,本当はデュエット作ではない。
トランペットのチェット・ベイカー,バリトン・サックスのペッパー・アダムス,フルートのハービー・マン,ピアノのビル・エヴァンス,ギターのケニー・バレル,ベースのポール・チェンバース,ドラムのフィーリー・ジョー・ジョーンズ,ドラムのコニー・ケイの超豪華メンバー。
しかしこのクセ者の豪華メンバーが集結した『チェット』が,紛れもなくチェット・ベイカーの「ソロCD」に聴こえてしまう。他の共演者を「完全掌握」したビル・エヴァンスの“黒子役”が見事に機能しているからだ。
ジャケット写真そのものの,王道バラード集=『チェット』ゆえビル・エヴァンスのピアノがリリカルにお膳立てしてからのトランペットの“入魂のテーマ”が淀みなく鳴り響く。
バリトン・サックスとフルートもテーマを吹くが時間はほんの1コーラス。つまりはチェット・ベイカーのトランペットによる“疑似ワン・ホーン・アルバム”な音造り。この上でビル・エヴァンスのピアノが“消える瞬間”が演出されている。

しかしこのトランペット・トリオのエッセンスがビル・エヴァンス流。
スムーズなチェット・ベイカーのトランペットが鳴り響く中,消えたピアノにハッキリと感じるビル・エヴァンスの陰。ビル・エヴァンスがピアノを弾かずともチェット・ベイカーと共演してみせている。
01. ALONE TOGETHER
02. HOW HIGH THE MOON
03. IT NEVER ENTERED MY MIND
04. 'TIS AUTUMN
05. IF YOU COULD SEE ME NOW
06. SEPTEMBER SONG
07. YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO
08. TIME ON MY HANDS (YOU IN MY ARMS)
09. YOU AND THE NIGHT AND THE MUSIC
10. EARLY MORNING MOOD
(リバーサイド/RIVERSIDE 1959年発売/VICJ-60340)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/オリン・キープニュース,市川正二)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/オリン・キープニュース,市川正二)
コメント一覧 (2)
『…他の共演者を「完全掌握」したビル・エヴァンスの“黒子役”が見事に機能している…』
『…ビル・エヴァンスのピアノが消える瞬間…』
以上を受けた次の表現が気に入りました。
『スムーズなチェット・ベイカーのトランペットが鳴り響く中、消えたピアノにハッキリと感じるビル・エヴァンスの陰。ビル・エヴァンスがピアノを弾かずともチェット・ベイカーと共演してみせている』
“ピアノを弾かずともチェット・ベイカーと共演してみせている”――。小生がビル・エヴァンスを好きであることは別にしても、この“言い回し”は素晴らしいですね。今にも「ビル・エヴァンス」のピアノと「チェット・ベイカー」のトランペットが響き始めるかのようです。
ジャズはよくわからない……両者も知らない……ましてやそのSOUNDなどさっぱり見当もつかない……という方であっても、その豊かな“感性”とクリエイティブな“イマジネーション”によって、“何となく聴いてみたい”という気持ちになるのではないでしょうか。
そう想わせる貴兄の“ことば”であり、その“ことば”を引き出したビル・エヴァンス、そして、チェット・ベイカーということになるのでしょう。
なんだか大絶賛のコメントをありがとうございます。秀理さんのエヴァンス好きは知っていますが,多分このアルバムのチェット・ベイカーも気に入ることでしょうね。
私のレビューではなく,秀理さんの「ジャズはよくわからない……両者も知らない……ましてやそのSOUNDなどさっぱり見当もつかない……という方であっても、その豊かな“感性”とクリエイティブな“イマジネーション”によって、“何となく聴いてみたい”という気持ちになるのではないでしょうか」の言葉に誘われて『チェット』を聴いていただける人が増えたと思います。