
バラードを紡いだ『チェット』の姉妹盤であり,ミュージカルのソング・ブックを紡いだ『チェット・ベイカー・プレイズ・ラーナー&ロウ』は,天性の才能だけで“成り上がってきた”チェット・ベイカーが辿り着いた「ザ・リラックス」。
『チェット』に参加していたバリトン・サックスのペッパー・アダムス,フルートのハービー・マン,ピアノのビル・エヴァンスに加えて,アルト・サックスとテナー・サックスのズート・シムズの「超VIP」級のフロント陣とピアノのビル・コーウィン,ベースのアール・メイ,ドラムのクリフォード・ジュアーヴィスの「B級」リズム隊。
この“頭デッカチ”な異色の編成が『チェット・ベイカー・プレイズ・ラーナー&ロウ』成功のミソである。
そう。全ては「ラーナー&ロウ」の名曲をメロディアスにプレイするための布陣。リズム隊に気兼ねすることなく“朗々と”ブローする。名曲を演奏する音楽家としての幸福。ロマンティックでリラックスな“メロメロ系”の大名演である。
「大名演だ。愛聴盤だ。裏名盤だ」。そう大声を張り上げるのがバカバカしく感じる。
チェット・ベイカーのファンなら同じだと思うのだが『チェット・ベイカー・プレイズ・ラーナー&ロウ』は,あまり人に知られてほしくはない。メディアからの取材は「ノー・サンキュー」。
ズバリ『チェット・ベイカー・プレイズ・ラーナー&ロウ』は“大人のくつろぎ”な音楽であり,大人の音楽ファンだけが一生聞き続けるであろう大事な大事な宝物の1枚なのである。

チェット・ベイカーの“まろやか音色”がロマンチシズム。“繊細な優しいトーン”がリリシズム。全てを忘れてジャズに無心で「酔いしれる」のみである。
そう。『チェット・ベイカー・プレイズ・ラーナー&ロウ』は,チェット・ベイカー・ファンだけの「隠れ家」。ジャズ・ファンだけの「隠れ家」。通だけが知っている秘密の「隠れ家」なのである。
01. I'VE GROWN ACCUSTOMED TO HER FACE
02. I COULD HAVE DANCED ALL NIGHT
03. THE HEATHER ON THE HILL
04. ON THE STREET WHERE YOU LIVE
05. ALMOST LIKE BEING IN LOVE
06. THANK HEAVEN FOR LITTLE GIRLS
07. I TALK TO THE TREES
08. SHOW ME
(リバーサイド/RIVERSIDE 1959年発売/VICJ-2205)
(ライナーノーツ/オリン・キープニュース,岡崎正通)
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