
ハズレだハズレ。『CHET BAKER WITH FIFTY ITALIAN STRINGS』(以下『マイ・ファニー・ヴァレンタイン〜チェット・ベイカー・ウィズ・ストリングス』)は大ハズレ。これってジャズではなくイージー・リスニング?
「ウィズ・ストリングス」に加えての木管群とホーン隊までが加わった?ゴージャスでムーディーなスタンダード集。しかし同じトランペット奏者の『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』とのテイストとは真逆な“軟弱”チェット・ベイカーが登場している。
これほど甘々なものはそうはあるまい。『マイ・ファニー・ヴァレンタイン〜チェット・ベイカー・ウィズ・ストリングス』の甘ったるさは,幾ら“甘党の”ジャズ・ファンであったとしても受け入れ難いものがある。
そう。『マイ・ファニー・ヴァレンタイン〜チェット・ベイカー・ウィズ・ストリングス』のハイライトは,チェット・ベイカーのイージー・リスニング調トランペットではなく,チェット・ベイカーの退廃感を増したボーカルにある。
バックが甘々であるがため,普段は受け入れ難い,チェット・ベイカーの“退廃感”が丁度良い塩梅。
『マイ・ファニー・ヴァレンタイン〜チェット・ベイカー・ウィズ・ストリングス』の“目玉”である【MY FUNNY VALENTINE】が秀逸である。定番である『CHET BAKER SINGS』収録の【MY FUNNY VALENTINE】における中性的な魅力に,今回はロマンチシズムがプラスされ“ゲテモノ”を卒業した素晴らしいジャズ・ボーカルだと思う。
【ANGEL EYES】【FORGETFUL】【DEEP IN A DREAM】のボーカル・ナンバーも同様に“退廃感”のあるボーカルが“甘いストリングス”で中和されたジャズ・ボーカルへと昇華されている。
特に【FORGETFUL】におけるトランペットともボーカルとも区別がつかない器楽的なアーティキュレイションはジャズ・ボーカリストのそれである。

『マイ・ファニー・ヴァレンタイン〜チェット・ベイカー・ウィズ・ストリングス』は,ロマンティックという“甘味料入れすぎ”のゴージャスでムーディーなスタンダード集。ゆえにそのままで聴いたらイージー・リスニング・ジャズの「外道」であって,廃棄処分は間違いない。
ただしトランペット抜きに“ジャズ・ボーカリスト”チェット・ベイカーのアルバムとして評価するなら,これはこれでアリかもしれない。
“甘味料入れすぎ”な『マイ・ファニー・ヴァレンタイン〜チェット・ベイカー・ウィズ・ストリングス』はブラック・コーヒーを飲みながら聴いていただきたい。アルコールではダメなのです。
01. MY FUNNY VALENTINE
02. I SHOULD CARE
03. VIOLETS FOR YOUR FURS
04. THE SONG IS YOU
05. WHEN I FALL IN LOVE
06. GOODBYE
07. AUTUMN IN NEW YORK
08. ANGEL EYES
09. STREET OF DREAMS
10. FORGETFUL
11. DEEP IN A DREAM
(ジャズランド/JAZZLAND 1959年発売/VICJ-2183)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)