
それは「チック・コリア&オリジン」名義ではなく,アヴィシャイ・コーエン名義の『DEVOTION』(以下『ディヴォーション』)がそれである。
『ディヴォーション』は,活動を休止したはずの「チック・コリア&オリジン」そのもの。「アヴィシャイ・コーエン&オリジン」の音楽そのものだと思う。
『ディヴォーション』のレコーディング・メンバーには,スティーヴ・ディヴィスとジェフ・バラードの元「オリジン」・メンバーのクレジット。「オリジン」が事実上,アヴィシャイ・コーエンのソロ・アルバムで復活を遂げている。
アヴィシャイ・コーエンを聴いて,直結する「オリジン」特有の感覚は,チック・コリアが全面協力した『ADAMA』でも感じ得たものだったが,この『ディヴォーション』から漂う「オリジン」特有の感覚は,アヴィシャイ・コーエンの書くメロディ・ラインとベース・ラインに多くを負っている。
アヴィシャイ・コーエンの書くメロディ・ラインは,キャッチーではないのだが耳残りが激しい。恐らく作曲のテクニックがあって,例えば起承転結があって,とかの技術的なウンヌンを超えたレベルで創作されている。音の節々から“キシミ”が聴こえてくる。

サスティンが短く,時に速いパッセージをスタッカート気味に刻んでいる。従来の4ビートのウォーキングに全く支配されない音列とリフ・パターンが絡み合う,ベース・ラインからの「哀愁のメロディ・ライン」が素晴らしい。
実はこの辺りの感覚が「オリジン」特有の感覚と直結する要因だと思うが,とにかく困惑させられる。なんでここでこんなメロディが出て来るのだろうか?
でも,聴き込んでいるうちに,いつしか“しっくり来ている”自分がいる。アヴィシャイ・コーエンが『ディヴォーション』で表現した幾枚ものベールがかかったイスラエルのジャズ。実はこれが,王道ジャズ,なのである。
01. EL CAPITAN & THE SHIP AT SEA (Dedicated to
Horace Silver)
02. THE GIFT (Dedicated to Chick Corea)
03. BASS SUITE #3 PART 1 (Dedicated to Galia Luz)
04. OT KAIN
05. ANGELS OF PEACE
06. TI DA DOO DI DA
07. LINDA DE MI CORAZON
08. DEEP BLUE
09. IGOR
10. SLOW TUNE
11. NEGRIL
12. MUSA
13. CANDELA CITY
14. BASS SUITE #3 PART 2
15. ALTONSIA
(ストレッチ・レコード/STRETCH RECORDS 1999年発売/MVCL-24015)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)