
な・に・を・懺悔するのですか? それはチック・コリアについてである。長らく管理人はチック・コリアを「凄い」とは思うが「好き」とは思わなかった。
チック・コリアの新作を発売日当日に購入し,胸ときめかせながらヘッドフォンで聴き込んでいく。これが管理人にとっての「好き」な人への儀式なのだが,チック・コリアが儀式の対象となったのは,ここ10年ぐらいなものである。真に勿体なかった!
なぜか? その直接の原因が『THE LEPRECHAUN』(以下『妖精』)『MY SPANISH HEART』(以下(『マイ・スパニッシュ・ハート』)『THE MAD HATTER』(以下『マッド・ハッター』)から成る「ファンタジー三部作」の存在である。
今振り返れば,チック・コリアのアルバムはその半数近くが何らかの「コンセプト・アルバム」である。ゆえに「ファンタジー三部作」だけを目くじら立てて煙たがるのもどうかと思う。
しかし,どうしてもダメだった。これは,俗に女性がよく口にする「生理的にダメ」というものと同じような感覚? 管理人にとってチック・コリアの“少女漫画のおめめきらきらロマンティック”全開の「ファンタジー三部作」は完全なる「イロモノ」→完全に「アウト」であって,この手の精神世界は全てご遠慮いただいていた。
特に今夜紹介する「ファンタジー三部作」の2作目『マイ・スパニッシュ・ハート』のアルバム・ジャケットがマジ最悪。本人はスペイン貴族で貴公子気取りのつもり? 闘牛士のつもり? 管理人が連想したのは,多くの奇行や逸話が「スペインの恥じ伝説」として語られるサルバドール・ダリである。うわわ…。恐すぎる…。手に取ることすらはばかられる…。
あれから20年。管理人も歳を取った。おじさんとなった今ならチック・コリアの「ファンタジー三部作」を受け止めることができるはずである。
時は2009年。『ニュー・クリスタル・サイレンス』のグラミー受賞で,チック・コリアの“隠れファン”を卒業宣言した管理人が,ついに『妖精』『マイ・スパニッシュ・ハート』『マッド・ハッター』を買ってみた。そしてヘッドフォンで聴き込んでみた。
事の結論はこうである! 「音楽的には最高である! 絶頂である! 駄盤しらずのチック・コリアの全生涯を通じても,あふれんばかりの創造性のピークを迎えている!」。
「音楽を演奏すると言うよりは“物語を紡ぎ出す”と言う方がしっくりくる! チック・コリアが『MUSIC MAGIC』(後のリターン・トゥ・フォーエヴァーでのアルバム・タイトル)をかけている!」。
「ファンタジー三部作」の第二弾は『マイ・スパニッシュ・ハート』。『マイ・スパニッシュ・ハート』のコンセプトは「スペイン魂」であって,アルバム全体を貫く「ラテンの血」が“音絵巻のストーリー”として展開されていく。

リターン・トゥ・フォーエヴァーの大名曲【LA FIESTA】や【SPAIN】のような,ストレートにスペインのエッセンスを取り入れたフュージョンではなく,スペインを思い浮かべながら描いた紛れもないチック・コリア流“ファンタジー”フュージョン。
恋焦がれるかのような“憧れの音”なはずなのに,理性や知性で綿密に構成が練られている。
そう。『マイ・スパニッシュ・ハート』は「チック・コリアのスペインに対する音楽でのラヴ・レター」なのである。
“スパニッシュなテイスト”を前面に押し出した『マイ・スパニッシュ・ハート』の音楽的なコンセプトは,ブラジリアンのジョー・ファレル,アイアート・モレイラ,フローラ・プリムをフューチャーした「第一期リターン・トゥ・フォーエヴァー」の延長線上に位置する傑作だと思う。
しかし類似のコンセプトを有するにしても,ECMとポリドールにおける音造りの違いは大きく『リターン・トゥ・フォーエヴァー』が,澄み渡る空気感・透明感の“不思議な浮遊体験サウンド”であるとするならば『マイ・スパニッシュ・ハート』は,お酒飲んで踊り出したくなるくらいに“情熱的で明るく陽気なサウンド”である。
『マイ・スパニッシュ・ハート』には,かなりお茶目なチック・コリアの“お人柄”が音の個性として現われている。
繰り返すが『マイ・スパニッシュ・ハート』は,チック・コリアの大量の名盤群のなかでも音楽的には最高レベル! でもやっぱり星は4つ! 惜しまれるべきは,なぜあんなアルバム・ジャケットにしたのだろうか?
01. Love Castle
02. The Gardens
03. Day Danse
04. My Spanish Heart
05. Night Streets
06. The Hilltop
07. Wind Danse
08. Armando's Rhumba
09. Prelude To El Bozo
10. Bozo, Part I
11. Bozo, Part II
12. Bozo, Part III
13. Spanish Fantasy, Part I
14. Spanish Fantasy, Part II
15. Spanish Fantasy, Part III
16. Spanish Fantasy, Part IV
(ポリドール/POLYDOR 1976年発売/POCJ-1980)
(ライナーノーツ/寒川光一郎)
(ライナーノーツ/寒川光一郎)
コメント
コメント一覧 (2)
Chick Corea、本気のスパニッシュミュージック「My Spanish Heart 」傑作ですね。
ドラマーである私がドラムのない曲に惚れたのは初めてでした。
「The Hilltop」などドラムがないのにこんなに、メロディーラインを注目した事はありませんでした。
Chick Coreaお得意「組曲」の創り方は相変わらず巧妙ですね。どこで切るか、どこをスタートにするか。全てを心得ていますね。
管理人さんの言う「レーベルによる音の違い」は私もすぐ分かりました。
でもこの「熱い音」で繰り広げる「Spain」や「La Fiesta」も聞いてみたいですね。
スパニッシュ気質のチック・コリアが本気で作り上げたスパニッシュ・ミュージック「My Spanish Heart 」。大傑作です。
【ボレロ】気質の「組曲」の創り方は本当に素晴らしいですね。これしかないという構成美が感動に迫ります。
この「熱い音」で繰り広げる「Spain」や「La Fiesta」。もっともっと聴いてみたいです。スパニッシュど真ん中で聴いてみたいです。