AN EVENING WITH CHICK COREA AND HERBIE HANCOCK-1 ハービー・ハンコックマイルス・デイビスの「黄金のクインテット」のピアニストチック・コリアマイルス・デイビスの「ロスト・クインテット」のピアニスト
 ハービー・ハンコックは「ヘッド・ハンターズ」のリーダー。チック・コリアは「リターン・トゥ・フォーエヴァー」のリーダー。

 そう。ハービー・ハンコックチック・コリアは,同じマイルス・スクールの卒業生として,ジャズの新たな未来を切り開いてきた良き「ライバル」である。

 そんなピアニストとしてもコンポーザーとしても良き「ライバル」であるハービー・ハンコックチック・コリアが,ついに面と向かって「音楽で会話」したのが『AN EVENING WITH CHICK COREA AND HERBIE HANCOCK』(以下『デュオ・ライヴ』)。

 『デュオ・ライヴ』は,ハービー・ハンコックチック・コリアにとっては「画期的な転換点」と呼べるほどに,後々振り返る時,重要な意味を持つ名盤の1枚だと思う。
 なぜなら同じピアニスト,同じスターとしての立場という共通点を持つ共演相手として考えられるは,ハービー・ハンコックにとってはチック・コリアただ一人であり,チック・コリアにとってはハービー・ハンコックただ一人であったことだろう。

 『デュオ・ライヴ』における,ハービー・ハンコックチック・コリアの“歓び”が格別である。
 それは音楽的には良き「ライバル」であり続けたハービー・ハンコックチック・コリアだが,実はこの2人にしか分かり合えない感情を理解することのできる“唯一の盟友”であったことが証明された瞬間だった。ついに“運命の人”と巡り会うことのできた“歓び”が爆発している。

 『デュオ・ライヴ』には,ピアノ・デュオに期待される連弾のくだりはない。
 予想通り?ハービー・ハンコックチック・コリアのフレーズは全くシンクロしていない。それぞれが自分のスタイルを最後まで貫き通している。

 切磋琢磨の繰り返しにより,互いのジャズ・ピアノ度が高まっている。そして時に2台のピアノが1台のピアノに“合体”する時の美しさ…。聴いてこれ程“面白い”ピアノ・デュオはそう多くない。これぞ“プロ中のプロの音遊び”であろう。

 『デュオ・ライヴ』の聴き所は“ジャズ・ピアニスト”としてのハービー・ハンコックでありチック・コリアであろう。
 「ヘッド・ハンターズ」と「リターン・トゥ・フォーエヴァー」で,エレクトリックピアノにハマッテしまった2人がアコースティックピアノ1台で,よくもまああれだけしゃべれることができるものだ!

 この全ては,互いに相手を倒してやろうとか,優位に立とうとするのではなく,相手を刺激することで自分も刺激されることが分かる“ジャズの語法”が用いられている。
 2人の発する音の,もの凄い立ち上がり,が驚異的! 相手の発する音の意味を聞き分けて,自分のフィルターをかけて打ち返す。そのリターンに更なる変化を加えて打ち返す。長いラリーのようであって,一音一音が即興で連綿とつながっている! 即興のループで2人して絶頂の高みに昇りつめていく!

 特に互いの名曲を,作曲した本人と共にデュエットするのが,楽しくてしょうがない様子が音の表情に表われている。
 これらのトラックを聴くにつれ,普段はピアニストとしてもコンポーザーとしても良き「ライバル」である2人が,互いにジャズメンとして最大の敬意を抱いていることが良く分かる。素晴らしい。

 なお,今回の『デュオ・ライヴ』は「チック・コリア名義のポリドール盤」であるが,同内容の「ハービー・ハンコック名義のCBS盤」2枚組の『イン・コンサート』の変則同時リリース。レコード会社の壁を越えた“夢の共同プロジェクト”である。

 仮想3枚組みのCDは,内容からジャケット写真&ブックレットに至るまでデュエットの精神が貫かれた作りとなっている。
 選曲はラストの2曲の大ヒット・ナンバー【処女航海】【ラ・フィエスタ】以外はクロスすることのない親切設計。チャンネルもレフトがハービー・ハンコック,ライトがチック・コリアと統一されたのが大殊勲!

AN EVENING WITH CHICK COREA AND HERBIE HANCOCK-2 管理人の結論=『デュオ・ライヴ批評

 名盤デュオ・ライヴ』成功の秘訣は,ライブ・レコーディングにある。『デュオ・ライヴ』は,ハービー・ハンコックチック・コリア2人きりのデュエットに違いないのだが,実は隠された大勢の共演者が存在する。

 そう。ピアノ・デュオの極意を知るオーディエンスが,耳を澄ませば,時に聞き入り,時に拍手喝さいを送っている。その聴衆の反応がハービー・ハンコックチック・コリアアドリブをさえ導いている。完全なる“触媒役”を果たしている。
 仮に『デュオ・ライヴ』が,同じ選曲でスタジオで録音されたとしても,ここまでエキサイティングなピアノ・デュオとはならなかったことと思う。

 『デュオ・ライヴ』の真意は,演奏者と演奏者のデュエットであると同時に,演奏者と観客とのデュエットでもあった。
 一心同体と化した2人のピアニストが観客と一体となってデュエットする。この“2重構造”がハービー・ハンコックチック・コリアの『デュオ・ライヴ』である。

  01. HOMECOMING
  02. OSTINATO
  03. THE HOOK
  04. BOUQUET
  05. MAIDEN VOYAGE
  06. LA FIESTA

(ポリドール/POLYDOR 1979年発売/POCJ-2702)
(ライナーノーツ/久保田高司)

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