DUET-1 チック・コリアゲイリー・バートンデュエットに対するイメージは,最初に『クリスタル・サイレンス』と『デュエット』のどちらを聴くかによって,受ける印象は多分に異なることであろう。

 …というのも,デュエットの第2弾『DUET』(以下『デュエット』)で,チック・コリアゲイリー・バートンは成功を収めた『クリスタル・サイレンス』での人気スタイルを一変してきた。
 「水晶の青い炎の空気」に包まれたかのような“COOL”なデュエットから,熱いインプロビゼーションを基盤とする“HOT”なデュエットに音軸を振ってきたのだ。

 通常であれば,大ヒットした『クリスタル・サイレンス』の“COOL”路線を推し進めた続編を制作するものなのだろうが,チック・コリアゲイリー・バートンは『クリスタル・サイレンス』が「失敗作であるかのように」または「納得がいかなかったかのような」あるいは「飽き足らなかったかのように」正反対の表情を出してきた。

 このスタイルの変化は中途半端なものではない。管理人などは,チック・コリアゲイリー・バートンデュエットとは知りつつも「このピアノって本当にチック・コリアなの?」って疑ってしまいたくなる感じ…。
 いや〜,何度も繰り返し聴き直す度に改めて感じることであるが,チック・コリアゲイリー・バートンデュエットは,実に間口が広い。

 だからこそ“HOT”な『デュエット』を聴いてみて“COOL”な『クリスタル・サイレンス』を再評価できた。『クリスタル・サイレンス』に滲むチック・コリアゲイリー・バートンの熱演を“炙り出す”ことが可能になった。
 その意味でもチック・コリアゲイリー・バートンデュエットは“ジャズの伝統芸能”であり,もはや“芸術作品”と呼んでもよいだろう。

 特筆すべきは,狙いを絞り込んだ作風に合ったマンフレート・アイヒャーの類まれなる選曲眼。
 『クリスタル・サイレンス』の続編は“COOL”ではなく“HOT”で行くことに決まったにしても,大ヒット確実なスタンダード集に流れるのではなく,チック・コリアゲイリー・バートンデュエットにふさわしい佳曲だけを選んでいるように思う。

DUET-2 チック・コリア・サイドからは“最高傑作”『リターン・トゥ・フォーエヴァー』からのセレクト。
 『クリスタル・サイレンス』が『リターン・トゥ・フォーエヴァー』からの【CRYSTAL SILENCE】なら『デュエット』は『リターン・トゥ・フォーエヴァー』からの【LA FIESTA】。

 ゲイリー・バートン・サイドからはスティーヴ・スワローの【RADIO】と【NEVER】をセレクト。
 まるでチック・コリアゲイリー・バートンデュエットを想定して書かれていたかのような“COOL”で“HOT”な展開が最高に盛り上がる〜。もってこ〜い。

 マンフレート・アイヒャーが6年間の熟慮の末に仕掛けてきたデュオ第2弾の『デュエット』。『クリスタル・サイレンス』の表現手法を拡大すると『デュエット』に行き着く。
 そう。『デュエット』は『クリスタル・サイレンス』で伝え損なった「水晶の赤い炎のアドリブ」を補う役割を担っている。

 “筋肉ムキムキ”な演奏に変貌した『デュエット』だからこそ,嫌うのでも避けるのでもなく『クリスタル・サイレンス』の大ファンにこそ聴き込んでほしい,と切に願う。

  01. DUET SUITE
  02. CHILDREN'S SONG 15
  03. CHILDREN'S SONG 2
  04. CHILDREN'S SONG 5
  05. CHILDREN'S SONG 6
  06. RADIO
  07. SONG TO GAYLE
  08. NEVER
  09. LA FIESTA

(ECM/ECM 1979年発売/POCJ-2020)
(ライナーノーツ/油井正一)

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