HIGHWAY RIDER-1 ビル・エヴァンスキース・ジャレットミシェル・ペトルチアーニの“天才”ジャズ・ピアニストの系譜に位置するブラッド・メルドー
 ゆえに管理人はブラッド・メルドーに『HIGHWAY RIDER』(以下『ハイウェイ・ライダー』)を求めてはいない。パット・メセニーに『シークレット・ストーリー』を求めていないのと同様である。

 ブラッド・メルドーには前科がある。『ANYTHING GOES』『DAY IS DONE』での異端である。
 しかし『ANYTHING GOES』『DAY IS DONE』には,ジャズ・ピアニストブラッド・メルドーが鎮座していた。
 ところが『ハイウェイ・ライダー』では,ジャズ・ピアニストブラッド・メルドーが姿を消している。

 そう。『ハイウェイ・ライダー』におけるブラッド・メルドーの立ち位置は,まるでプロデューサーでのようある。指揮者のようである。総合音楽家のようである。
 ここまで入念に書き込まれたブラッド・メルドーピアノには「ときめき」を感じない。『ハイウェイ・ライダー』のピアニストブラッド・メルドーでなくてもよいと思う。

 ここまで全体に目くばせするのであれば,代役のピアニストを立ててもよかった。ブラッド・メルドーは,プロデューサー&指揮者として,サックスストリングスと“ピアノで綴るオーケストレーション”の設計図を書きさえすればよかった…。

 『ハイウェイ・ライダー』がブラッド・メルドーの名義でなければ,ここまで残念に思うことはない。
 ブラッド・メルドーの名前を意識しなければ『ハイウェイ・ライダー』は「壮大なスケールで描かれた抒情詩」ともいうべき“ロード・ミュージック”の名盤なのかもしれない。
 ハイウェイをブッ飛ばす爽快感がある…。眺めのよい雄大な風景が流れていく…。曲毎に,編成を変えリズムを変え,主役をピアノからサックスストリングスに変えた“ロード・ミュージック”が流れ出してくる…。

 しかし…。曲が進むに連れて段々と聴き続けることに苦痛を感じてくる。ブラッド・メルドーが運転する車の助手席から,ちょっとでいいから,降りたくなってしまう。寄り道してほしいとかトイレ休憩したいとか…。

 ブラッド・メルドーと2人きりの閉鎖された空間には耐えられない。ブラッド・メルドーは饒舌である。しかし会話に身が入らない。なんだかロボットと会話しているような感覚に陥ってしまうのだろう。

HIGHWAY RIDER-2 それ位に『ハイウェイ・ライダー』でのブラッド・メルドーは,管理人が以前から知っているブラッド・メルドー“その人”とは決定的に“別人”している。
 ジャズ・ピアニストブラッド・メルドーと同じ顔をした“クローン人間”が,ピアノを譜面通りに演奏しているとしか思えない。

 だ・か・ら『ハイウェイ・ライダー』からは「ときめき」も「感動」も感じない。タダ乗りできるから旅している。冒険心のないカーナビが指定したルートを旅している。サックスストリングスの流れるカーステレオを聞きながら旅している。ただそれだけの行為…。

 『ハイウェイ・ライダー』の失敗は,ブラッド・メルドーが傾けたベクトルが,新しい音楽の“創造の瞬間”ではなく“ロード・ミュージック”としてのストーリー性を仕立て上げることに向けられてしまったことだろう。ブラッド・メルドー4年振りのスタジオ盤という,長すぎた春,がそうさせてしまったのかもしれない。

 例えば『ハイウェイ・ライダー』のハイライトであろう,1枚目,2枚目ともに最後の2曲は2部構成のテーマが「メドレーで韻を踏んでいる」かのような凝りようが難解。ストリングスピアノ・トリオが加わるコンチェルトは思索的で哲学的な“ブラック”メルドーが顔を出している。

 4年間のリハビリは終わった。さぁ“天才”ジャズ・ピアニストとしてのブラッド・メルドーよ,帰って来い! ビル・エヴァンスキース・ジャレットミシェル・ペトルチアーニの系譜に位置するピアノ・トリオで,帰って来い!

 “天才”ブラッド・メルドーを真剣に追いかけ続けてきたマニアにとって『ハイウェイ・ライダー』は何とも物足りない。
 しか〜し『ハイウェイ・ライダー』にはジョシュア・レッドマンがいる。管理人はジョシュア・レッドマン目当てで聴いている。

  DISC ONE
  01. JOHN BOY
  02. DON'T BE SAD
  03. AT THE TOLLBOOTH
  04. HIGHWAY RIDER
  05. THE FALCON WILL FLY AGAIN
  06. NOW YOU MUST CLIMB ALONE
  07. WALKING THE PEAK

  DISC TWO
  01. WE'LL CROSS THE RIVER TOGETHER
  02. CAPRICCIO
  03. SKY TURNING GREY (FOR ELLIOTT SMITH)
  04. INTO THE CITY
  05. OLD WEST
  06. COME WITH ME
  07. ALWAYS DEPARTING
  08. ALWAYS RETURNING
  09. HIGHWAY RIDER [Commentary and Demo]

(ノンサッチ/NONESUCH 2010年発売/WPCR-13808-9)
(紙ジャケット仕様)
(CD2枚組)
(ライナーノーツ/中山智広,ブラッド・メルドー)

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