TOUCHSTONE-1 リターン・トゥ・フォーエヴァーを解散し,エレクトリック・バンドを結成するまでの1970年代後半から80年代前半におけるチック・コリアソロ活動。

 チック・コリアソロ活動を1枚に集約するのは無理なのだが,無理にでもその最右翼を挙げよと言われたなら,管理人は『TOUCHSTONE』(以下『タッチストーン』)を指名する。
 一般に重要作と捉えられる機会の少ない『タッチストーン』であるが,管理人は『タッチストーン』抜きにチック・コリアの多種多様なソロ活動を語ることはできないと思う。

 理由は3つある。その1つは『タッチストーン』が,チック・コリアが生涯追い続ける「スパニッシュ路線」に位置するからである。
 もう1つは『タッチストーン』が,チック・コリアバンド活動である,リターン・トゥ・フォーエヴァーからエレクトリック・バンドへの過渡期に位置するからである。
 そして3番目の理由。これが個人的には大きいのが『タッチストーン』での経験があったからこそ「エレクトリック・バンド」の『EYE OF THE BEHOLDER』が誕生したと思うからである。

 まず『タッチストーン』の「スパニッシュ路線」であるが『MY SPANISH HEART』とは異なる“フラメンコ・ギター”でのアプローチが“鮮烈”である。
 『MY SPANISH HEART』で多用したヴァイオリンを『タッチストーン』ではギターでアレンジ。やはりスパニッシュな音作りに弦楽器は欠かせない。
 【タッチストーン】【ザ・イエロー・ニンバス】では,アコースティックギターパコ・デ・ルシア。【コンパドレス】では,エレクトリックギターアル・ディ・メオラが,自分なりの“フラメンコ・ギター”でチック・コリアとタップしている。

 次に『タッチストーン』における「バンド・サウンドへの回帰」であるが,ズバリ,オリジナル・メンバーでの「第2期」リターン・トゥ・フォーエヴァーの再結成に尽きる。
 わずか1曲だけの再結成であるが,このインパクトが絶大で,チック・コリアエレクトリック・バンドの結成を「急がせるに足りる」名演だと思う。解散後にも関わらず“個性的なバンド・サウンド”が響いている。

 ゆえに「エレクトリック・バンド」の原型は『タッチストーン』にある。1枚だけ異質な『EYE OF THE BEHOLDER』の原型は『タッチストーン』にある。

 『タッチストーン』の全6トラックにアルバムとしての統一感はない。なんたってリー・コニッツまで参加した「スパニッシュ」であるがゆえ「名盤ならぬ迷盤」呼ばわりされる理由も分からないではない。管理人の評価も星4つである。

TOUCHSTONE-2 しかし,それでもどうしても,チック・コリアのファンを公言するつもりなら『タッチストーン』は押さえておいてほしい。6トラック全てがバラバラの寄せ集めなはずなのに,その全てにチック・コリアの“心の高鳴り”を感じるのだ。

 「ファンタジー三部作」にはなかった。『フレンズセッションにも『スリー・クァルテッツセッションにもなかった“個性的なバンド・サウンド”を耳にしたチック・コリアの“心の高鳴り”。

 双子のような最高のシンクル・パートナーであるゲイリー・バートンのそれとは異なっている。ライバルにしてスター同士だかる分かり合えるハービー・ハンコックのそれとも異なっている。“アイドル”パコ・デ・ルシアスパニッシュを目の前にしたチック・コリアの“心の高鳴り”。

 いつものチック・コリアならば,ここからヒネリを加えて,名盤へと仕上げていくのであろうが,個人的にどうしても欲しかった“音源コレクター”と化したチック・コリアの「はしゃぎっぷり」が“制作過程”を強く感じさせる『タッチストーン』。

 そう。『タッチストーン』は,これまでの「コンセプト有き」ではない,その場の“心象風景”をモチーフに制作された「ザ・チック・コリア」なコンセプトが逆に濃厚すぎる。

  01. TOUCHSTONE
      PROCESSION
      CEREMONY
      DEPARTURE

  02. THE YELLOW NIMBUS
  03. DUENDE
  04. COMPADRES
  05. ESTANCIA
  06. DANCE OF CHANCE

(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1982年発売/MVCR-124)
(ライナーノーツ/小川隆夫)

人気ブログランキング − 音楽(ジャズ)