
チック・コリアのソロ活動を1枚に集約するのは無理なのだが,無理にでもその最右翼を挙げよと言われたなら,管理人は『TOUCHSTONE』(以下『タッチストーン』)を指名する。
一般に重要作と捉えられる機会の少ない『タッチストーン』であるが,管理人は『タッチストーン』抜きにチック・コリアの多種多様なソロ活動を語ることはできないと思う。
理由は3つある。その1つは『タッチストーン』が,チック・コリアが生涯追い続ける「スパニッシュ路線」に位置するからである。
もう1つは『タッチストーン』が,チック・コリアのバンド活動である,リターン・トゥ・フォーエヴァーからエレクトリック・バンドへの過渡期に位置するからである。
そして3番目の理由。これが個人的には大きいのが『タッチストーン』での経験があったからこそ「エレクトリック・バンド」の『EYE OF THE BEHOLDER』が誕生したと思うからである。
まず『タッチストーン』の「スパニッシュ路線」であるが『MY SPANISH HEART』とは異なる“フラメンコ・ギター”でのアプローチが“鮮烈”である。
『MY SPANISH HEART』で多用したヴァイオリンを『タッチストーン』ではギターでアレンジ。やはりスパニッシュな音作りに弦楽器は欠かせない。
【タッチストーン】【ザ・イエロー・ニンバス】では,アコースティック・ギターのパコ・デ・ルシア。【コンパドレス】では,エレクトリック・ギターのアル・ディ・メオラが,自分なりの“フラメンコ・ギター”でチック・コリアとタップしている。
次に『タッチストーン』における「バンド・サウンドへの回帰」であるが,ズバリ,オリジナル・メンバーでの「第2期」リターン・トゥ・フォーエヴァーの再結成に尽きる。
わずか1曲だけの再結成であるが,このインパクトが絶大で,チック・コリアにエレクトリック・バンドの結成を「急がせるに足りる」名演だと思う。解散後にも関わらず“個性的なバンド・サウンド”が響いている。
ゆえに「エレクトリック・バンド」の原型は『タッチストーン』にある。1枚だけ異質な『EYE OF THE BEHOLDER』の原型は『タッチストーン』にある。
『タッチストーン』の全6トラックにアルバムとしての統一感はない。なんたってリー・コニッツまで参加した「スパニッシュ」であるがゆえ「名盤ならぬ迷盤」呼ばわりされる理由も分からないではない。管理人の評価も星4つである。

「ファンタジー三部作」にはなかった。『フレンズ』セッションにも『スリー・クァルテッツ』セッションにもなかった“個性的なバンド・サウンド”を耳にしたチック・コリアの“心の高鳴り”。
双子のような最高のシンクル・パートナーであるゲイリー・バートンのそれとは異なっている。ライバルにしてスター同士だかる分かり合えるハービー・ハンコックのそれとも異なっている。“アイドル”パコ・デ・ルシアのスパニッシュを目の前にしたチック・コリアの“心の高鳴り”。
いつものチック・コリアならば,ここからヒネリを加えて,名盤へと仕上げていくのであろうが,個人的にどうしても欲しかった“音源コレクター”と化したチック・コリアの「はしゃぎっぷり」が“制作過程”を強く感じさせる『タッチストーン』。
そう。『タッチストーン』は,これまでの「コンセプト有き」ではない,その場の“心象風景”をモチーフに制作された「ザ・チック・コリア」なコンセプトが逆に濃厚すぎる。
01. TOUCHSTONE
PROCESSION
CEREMONY
DEPARTURE
02. THE YELLOW NIMBUS
03. DUENDE
04. COMPADRES
05. ESTANCIA
06. DANCE OF CHANCE
(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1982年発売/MVCR-124)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
コメント一覧 (4)
Chick Coreaフリークとしては今更感が凄いのですが、やっと入手しました。
このアルバムから考察できる事を書くとなると、紙面が足りません。
Chick Coreaの研究材料には持ってこいな感じです。
散漫なイメージになってしまう理由も納得できます。
「統一感がない」と言ってしまえばそれまでですが、アルバム全体を見渡しても「スパニッシュ路線」は曲げてないように思えます。
1つコメントを残すなら【Return To Forever】の再結成が理屈抜きにカッコよかったです。
少し大人びた感じの【RTF】に切なくもなりますが、2008年の再結成で大暴れするので良しとしましょう 笑
このアルバムの延長線上に【Eye of the Beholder】と【The Ultimate Adventure】が見えるとは・・・
目の付け所が流石です 汗
「このアルバムから考察できる事を書くとなると、紙面が足りません。Chick Coreaの研究材料には持ってこいな感じです。散漫なイメージになってしまう理由も納得できます」。これは紙面の限りを尽くして感想をコメントしていただければうれしいのですが,いざ,書こうとなると筆が止まってしまうんですよね。難しいのは分かります。でもいつかお待ちしていてもよいですか? 考えがまとまった時でいいですから。
「スパニッシュ路線」はその通りです。
【Return To Forever】の再結成が理屈抜きにカッコよかったもその通りです。
このアルバムの延長線上に【Eye of the Beholder】と【The Ultimate Adventure】がドム男さんにも見えたのですねっ。流石はドム男さんです。チック・フリークの権化と化したドム男さんです。
筆の停止はよくある事なのですが、これほどに硬直したのは、初めてかもです。
1番分かりやすい考察ポイントは、Chickがだんだんと今のキーボードスタイルに近づいている事ですかね。
シンセ、Fender Rhodes、Moog、どれをとってもプレイスタイルが“今”に近づいていますね。
第2期【Return To Forever】の頃は、惜しげなく色々な楽器をガンガン使っているイメージでした。
ですが、使用している機材にハープシーコードが記載されなくなったところを見ると、無駄な機材を省いた部分が吉と出た気がします。
ですがこのアルバムの魅力はサウンドメイクの向こう側にあるような気もします。
Chick Coreaの歴史の中で【Return To Forever】の自然消滅と【Elektric Band】結成のちょうど真ん中あたりに位置する事でしょう。
この時期に表現したかった芸術が【Touchstone】その物だと思います。
そこで根底にあるスパニッシュ要素は変えずに、色々な曲調やクセの強い人選。
「統一感が感じれない」理由はここにあると考えます。
知名度で言えばファンタジー3部作に負けてしまいます。
ファンタジー3部作ほどハッピーでもなければ、番人受けするような創りでもないわけです。
Chick Corea本人もそのようには作っていない事でしょう。
「“裏”ファンタジー3部作」と言ったところでしょうか?
私的なもう2作は【Secret Agent】と【Tap Step】だと考えています。
これが限界ですかね 笑
あと半年くらい聴き込めば、またいいコメントができるかもです。
全くの別件になってしまうのですが、Tokyo Jazzの放送日時が公式ホームページに載っていました。
今週末の深夜に放送するので録画の方が良いかと思います。
『Night Streets』を放送するにしても『Return To Forever』を放送するにしても、名演であることは確かです。
この素晴らしいステージは必見ですよっ。
硬直しつつもここまで的確なコメントをいただき感謝です。含蓄があって私もチック・コリアの機材への言及が参考になりました。
ドム男さんの「“裏”ファンタジー3部作」ですが【Secret Agent】【Tap Step】は未聴なものでして。こちらこそ限界で申し訳ございません。
また半年後に悶絶もののコメントをいただければ幸いです。←重く受け止めないでくださいねっ。
Tokyo Jazzの放送日時をありがとうございます。うちにはBS環境がありません。ユーチューブにUPされるのを見ることにします。←重く受け止められずにすみません。