
『TRIO MUSIC,LIVE IN EUROPE』(以下『ライヴ・イン・ヨーロッパ〜夜も昼も』)は,そんなチック・コリアの“性分”から産ま落とされた名盤である。
キース・ジャレットの『STANDARDS,VOL.1』がリリースされたのが1983年。『ライヴ・イン・ヨーロッパ〜夜も昼も』の録音が1984年のチック・コリア初のスタンダード集。つまりはそういうことなのである。
個人的には,この辺りがチック・コリアの“節操のなさ”を表わすようで,チック・コリアに肩入れできない状態だったのだが,ただ音楽自体は別物!
“後出しジャンケン”的な『ライヴ・イン・ヨーロッパ〜夜も昼も』が,あのキース・ジャレットの「スタンダーズ」を凌駕している!
とにかく凄い&とにかく素晴らしい。キース・ジャレット大好き人間の管理人をして,チック・コリアに「最大級の賛辞」を贈りたい。
キース・ジャレットの「スタンダーズ・トリオ」を凌駕したチック・コリアの,通称「ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス・トリオ」。
そう。チック・コリアがキース・ジャレットに対抗するに必要としたのは,かつて「ジャズ・ピアノの新しい扉」を共に抉じ開けたベースのミロスラフ・ヴィトウスとドラムのロイ・ヘインズ。
管理人としては,このうがった見方に確信があるのだが,もしかしたら『ライヴ・イン・ヨーロッパ〜夜も昼も』の制作意欲は『NOW HE SINGS,NOW HE SOBS』の更なる発展を目指したものかもしれない。
その意味では『ライヴ・イン・ヨーロッパ〜夜も昼も』はキース・ジャレット「スタンダーズ」の“2番煎じ”ではないとも言える。
事実,ライブ録音という“くくり”で語れば『星影のステラ』よりも早いわけだし…。
明らかに「スタンダーズ・トリオ」を意識した「ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス・トリオ」の演奏は,敢えてキース・ジャレットの筆をなぞったようなコード進行で勝負している。
憂いを含んだメロディーをラブソディックに熱した所で,ベースに渡す展開は,意識しているというより「オレ達だってスタンダーズみたいに演ろうと思いさえすればいつだってできる」という主張を証明したがっているような演奏に聴こえる瞬間で満ちている。

『ライヴ・イン・ヨーロッパ〜夜も昼も』は,キース・ジャレットの「スタンダーズ」の3枚=『STANDARDS,VOL.1』『STANDARDS,VOL.2』『CHANGES』に対するチック・コリアからの回答である。
キース・ジャレットの3枚に対してチック・コリアの1枚。十分すぎる模範解答である。
それにしても『ライヴ・イン・ヨーロッパ〜夜も昼も』の制作はECMなんです。またしてもマンフレート・アイヒャーなのです。
ゆえに『ライヴ・イン・ヨーロッパ〜夜も昼も』の特徴は「抑制美」ということになるのでしょう。完全にチック・コリアに統御された美しい音のきらめきが零れ落ちるような演奏。あぁ,ため息が漏れ出てしまう(by ロマンティック管理人)。
01. THE LOOP
02. I HEAR A RHAPSODY
03. SUMMER NIGHT-NIGHT AND DAY
04. PRELUDE NO.2-MOCK UP
05. TRANSFORMATIONS
06. HITTIN' IT
07. MIROVISIONS
(ECM/ECM 1986年発売/POCJ-2019)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)