
『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』を聴いてもいないのに,聴こうと思っただけで泣けてくる。『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』のアルバム・タイトルを耳にしただけで無性に泣けてくる。『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』の“孤高の世界観”がツボなのだ。
『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』のストーリーテラーが“悲しげ”である。重厚かつ荘厳な編曲が施されている。全体が暗い影で覆われており,雰囲気が哀愁のヨーロピアンでクラシカルに振れている。陽気なスパニッシュもあるのだが,明るさの裏に“陰り”が伴なっている。「濃密な音楽詩情」が展開されている。
そう。『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』とはチック・コリアが意図的に狙った“叙情詩”なのである。
『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』は,もはや「エレクトリック・バンド」の枠を飛び出している。その最大の要因はチック・コリアの身に生じた「電化キーボードと生ピアノの融合」にある。
ついに『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』で「エレクトリック・バンド」への「アコースティックの導入」が始まったのだ。
もともと「エレクトリック・バンド」の表記は「ELEKTRICK BAND」であって「ELECTRICK」の意ではない。バンドが安定してきたら生ピアノを投入することが事前に宣言されていた。
チック・コリアとしたら,ついにその時が来ただけ,のことなのであろうが,リスナー側のニュアンスとしては,機が熟したからではなく『ライト・イヤーズ』の制作を通じて“電化オンリーの限界”を感じたように思ってしまう。
そう。『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』は「エレクトリック・バンド」の並びにはない。「エレクトリック・バンド」名義の他のアルバムとは分けて考えるべき作品である。
どちらかと言えばチック・コリアのソロ名義の扱いに近い。しかしこの論理にも無理がある。
ズバリ『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』は,チック・コリアのソロにも「エレクトリック・バンド」にも属さない“孤高の異色盤”である。
チック・コリアを独創的な音楽へと向かわせるモチベーションは,いつでもイマジネーション豊かなコンセプトとスパニッシュなのであるが,思索的なストーリー・テラーの『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』は,チック・コリアの「冒険の旅」の結晶であろう。
詳しい説明は省略するが,ニュアンスとしては『タッチストーン』の延長線上に位置している。『タッチストーン』での“やり残し”を『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』で完結させているような感じで…。

幻想的なシンセ・オーケストレーションと“対立する”エリック・マリエンサルのサックスとフランク・ギャンバレのギターのインプロビゼーションが実に素晴らしい。チック・コリアの生ピアノと相まって,曲の深みがぐっと出てドラマチックな味わいが加わっている。
この絶妙なバランス感覚は「エレクトリック・バンド」特有の音。他の誰かが狙ってもチック・コリアだけにしか造り出すことのできない“稀有な味”である。
目玉である「アコースティックの導入」にしても,実は頑なにトーンは暗め一辺倒であって,色彩効果は限定的である。チック・コリアのエレクトリックとアコースティックのバランスに「音の美学」が溢れ出ている。
そう。『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』は,チック・コリア唯一の“内へ内へ”の耽美主義! チック・コリアが“全身全霊”で「内面の自分」をさらけ出している!
しかし,それだけではないのだ。『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』には,リリシズムからのチェンジが記録されているのだ。
リリシズムへの反動の如く流れ出す【TRANCE DANCE】と【EYE OF THE BEHOLDER】の,破竹の勢いで前進し続ける“歓喜の絶唱”に悶えてしまう!
チック・コリアのアルバムには,彼のユニークな人柄を感じさせる部分が多分にあるのだが『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』には「トータル・サウンドの完成」を優先させたチック・コリアの“生真面目”でロマンティックな一面が随所に感じられる。
だ・か・ら“叙情詩”『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』の「表と裏」に泣けてくる。エレクトリック・サウンドの中で鳴り響くチック・コリアの“心の震え”が今の今でも聴こえてくる。
01. HOME UNIVERSE
02. ETERNAL CHILD
03. FORGOTTEN PAST
04. PASSAGE
05. BEAUTY
06. CASCADE-PART I
07. CASCADE-PART II
08. TRANCE DANCE
09. EYE OF THE BEHOLDER
10. EZINDA
11. AMNESIA
(GRP/GRP 1988年発売/VDJ-1146)
(ライナーノーツ/小川隆夫,市川正二,青木和富,成田正)
(ライナーノーツ/小川隆夫,市川正二,青木和富,成田正)
コメント一覧 (10)
私もBinaryとか色んな事を書いてるんですが、まとまりがなくって参考にさせて頂きたいです♪
最近は、私はバイナリーとか食とか最近の出来事について書いてます♪
相互で読者とかイイネ!したいなぁって思うので是非、見に来て下さいね(*>ω<*)
JAZZ/FUSIONの名盤をお探しの際には,また当ブログにお立ち寄りくださいね。
「Eye Of The Beholder」本当カッコいいアルバムですよね。
一枚目である「The Chick Corea Elektric Band」が1番名盤と言われがちですが、EB名義と言うよりchickの挑戦的ソロアルバムな感じがしますね。
ですが今回の「Eye Of The Beholder」はEBにしか出せないサウンドがなんとも、たまらなくいいですね。
「孤高の世界観」と言う表現が1番ピッタリですね。
「Chick Corea」のソロアルバムでもなく、
「Elektric Band」でもないなら、
「Chick Corea Akoustic Quartet」ですね
「Chick Corea Akoustic Quartet」名義の「Eye Of The Beholder」。
確かにそうですね。「Eye Of The Beholder」は,チック・コリアがエリック・マリエンサルとフランク・ギャンバレのために捧げたアルバムだと思っています。
CCEBではレアであるサックスとアコギのあの鳴りっぷりにグッと来るのです。何度聴いても泣けるアルバムです。今夜,久しぶりに聴きたくなりました。
「アコースティックの導入以上に、Frank Gambaleと Eric Marienthalの導入が大きい」
管理人さんはやはりCD評論が上手いですね!その発想はありませんでした。
考えてみれば前作の「Light Years」では、この2人の必要性はなかったように思えます。
だがしかし今作の「Eye Of The Beholder」ではこの2人がいる事により「孤高の世界観」が演出されていると思います。
切なさの奥底に鳴り響くサックスとギター。
聞けば聞くほど、発見があり、
離れれば離れるほど、聞きたくなる
管理人さんが涙した理由がだんだんわかってきた気がします
ドム男さんの熱心さのおかげで『EYE OF THE BEHOLDER』を昨晩久しぶりに聴いてみました。そしてやっぱり泣けてきました。
あのサックスとアコギがチック・コリアのキーボードと絡むのが聴こえてくると,パブロフの犬状態になってしまって涙がこぼれてしまう条件反射が出来上がっているのです。
ジョン・パティトゥッチとデイブ・ウェックルほどの存在感はありませんが,エリック・マリエンサルのサックスとフランク・ギャンバレのアコギなくして『EYE OF THE BEHOLDER』は成立し得なかったと思いますし,エリック・マリエンサルとフランク・ギャンバレの代わりはいないと思います。
まだ私は管理人さんのレベルには程遠いので、この大名盤「Eye Of The Beholder」を書き込んで研究したいと思います。
ドム男さんのコメントで自分の中のチック・コリア熱が再燃してきました。
『Eye Of The Beholder』を聴き込むのはいい選択だと思います。その後はRTFとかオリジンも好きですね。最終的にはゲイリー・バートンとのデュオに行くか,あるいは『フレンズ』とかファンタジー3部作だと思いますが,出来不出来を越えた部分でCCEBこそが私の中のチック・コリアなのです。ドム男さんも?
Chick Corea で1番最初に聞いたアルバムが「The Chick Corea Elektric Band」ですから、管理人さんの言葉を借りるなら僕も'リアルチックコリアの始まり'はCCEBですから。
ですがChick coreaの他のソロアルバムにも手を出していき、管理人さんに少しでも近づけたらいいです。
私に近づくなんて滅相もありません。私なんてまだまだひよっこです。
お互いチックに近づけるようCD聴きまくって精進していきましょうねっ。