
そう。チック・コリアの「アコースティック・バンド」とは「エレクトリック・バンド」あっての“派生バンド”である。
“電化まみれ”な「エレクトリック・バンド」の機材は,それ相当のもの,であって大きな会場でしかライブが行なえない。これがチック・コリアのジレンマであった。チック・コリア“自慢”のバンド・サウンドを,もっとライブでも聴いてほしい。
そう。「アコースティック・バンド」の真髄とは“小回りの利く「エレクトリック・バンド」”なのである。
ここで『EYE OF THE BEHOLDER』の登場である。「電化キーボードと生ピアノの融合」を試みた『EYE OF THE BEHOLDER』のフォロー・ツアーに,チック・コリアはシンセサイザーの山と共にグランド・ピアノを持ち込んだ。
このグランド・ピアノのアタック音にチック・コリア自身が“しびれてしまった”のであろう。「エレクトリック・バンド」の単なる縮小版ではなく,もっともっとグランド・ピアノを〜! チック・コリアはいつでも“即決即断”の人だった〜!
そういう経緯で?「アコースティック・バンド」のレパートリーは,思いっきり“グランド・ピアノを弾き倒す”ためのスタンダード・アンド・モア! 「アコースティック・バンド」のデビュー・アルバム『CHICK COREA AKOUSTIC BAND』の邦題は『スタンダード・アンド・モア』!
「棚ボタ」で産まれたチック・コリアの“新たなスタンダード集”とは“ロックするスイング集”のことであった。
『スタンダード・アンド・モア』の聴き所は,チック・コリアが“全てを仕切った”ジョン・パティトゥッチのウォーキング・ベースとデイブ・ウェックルのパーカッシブなドラミングであろう。
同じチック・コリアのピアノ・トリオではあるが,シリアスなジャズ一本で押した『ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス』とコンテンポラリーなジャズを追及した『スタンダード・アンド・モア』には“月とすっぽん”ほどの開きがある。
『スタンダード・アンド・モア』におけるチック・コリアは,ちょうどアンコールで披露するかのような,エンターテイメントで芯を固めたピアノを弾いている。
一聴するとジョン・パティトゥッチのベースとデイブ・ウェックルのドラムに“煽られて”いるかのように感じてしまう。

“小回りの利く「エレクトリック・バンド」”そのまんま,長めのインプロビゼーションの前後で,ビシバシ&キメ! これが超カッコイイ!
この“神業連発”リズム・セクションの能力を最大限に引き出した所で,チック・コリアのリターン・エースが決まりまくる! チック・コリアは常に“冷静沈着な”演奏であって,一音一音が「インテリ」っぽい雰囲気と書いたら伝わるのだろうか?
リズム・セクションの爆発が事前に織り込み済みであったかのような,メロディアスなアプローチが「ELEKTRICK」で「AKOUSTIC」!
01. BESSIE'S BLUES
02. MY ONE & ONLY LOVE
03. SO IN LOVE
04. SOPHISTICATED LADY
05. AUTUMN LEAVES
06. SOMEDAY MY PRINCE WILL COME
07. MORNING SPRITE
08. T.B.C. (TERMINAL BAGGAGE CLAIM)
09. CIRCLES
10. SPAIN
(GRP/GRP 1989年発売/VDJ-1190)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
コメント一覧 (2)
実態としては Chick Corea がバンドの運営をしているが、運営主にも負けない「深い音」で対抗するDave WecklとJohn Patitucciが非常に心地よい一枚ですね。
3人の超絶Jazzテクニックがぶつかり合う名盤ですね。
それにしてもChick Corea は一体どれぐらいのジャンルに手を出すのでしょうか。
チック・コリアを語るというのは大仰でしょうが,CCEBを語る上で『CHICK COREA AKOUSTIC BAND』は外せません。
ジョン・パティトゥッチとデイブ・ウェックルがチック・コリアを煽りまくり,煽られたチック・コリアが胸で受け止めている。
「3人の超絶Jazzテクニックがぶつかり合う名盤」。このコメント通りの名盤ですね。