INSIDE OUT-1 “所構わず移り気する”チック・コリアの“音楽性の縮図”である「エレクトリック・バンド」の第4作『INSIDE OUT』(以下『インサイド・アウト』)の真髄は“エレクトリックジャズ”!

 とにかく厚いテンションコードの連続で音密度が“濃厚”なのである。『インサイド・アウト』のこのヨコノリはフュージョンのものではなくジャズのものである。

 「エレクトリック・バンド」から「アコースティック・バンド」への変化は“音の削減”がテーマであったが「アコースティック・バンド」を経験し,再起動した「エレクトリック・バンド」でのテーマは「アコースティック・バンド」のテンションはそのままに“電飾する”ことにあった。
 チック・コリアMIDIシンセが“エレクトリック一辺倒”にはなっていない。チック・コリアの中ではエレクトリックアコースティックとの“垣根”がとっぱらわれてしまったような感じ。

 そう。『インサイド・アウト』における電飾の“塩梅”が絶妙であって,いかにも「アコースティック・バンド」を体験した者たちによる「通過儀式」のように感じてしまうのだ。

 曲想もそうである。『インサイド・アウト』には【MAKE A WISH】【STRETCH IT】【TALE OF DARING】と題する「組曲」が3つも入っている。ゆえにテーマが複雑ではっきりしない。正直,何を演奏しているのか分からなくなるくだりが多い。
 アヴァンギャルドな長尺で超絶なソロ廻しが増えている。この辺りのフリーアドリブ・スペースでの硬派なフレーズ全開が“エレクトリックジャズ”している所以なのだ。

 そんな“エレクトリックジャズ”の文脈から飛び出してきたのが最高にPOPでキャッチーなタイトル・チューンの【INSIDE OUT】。【INSIDE OUT】だけは『LIGHT YEARS』に収録されるべき“スムーズ・ジャズ”な1曲であるが,この曲での「エレクトリック・バンド」が大好きで【INSIDE OUT】を聴きたいがために『インサイド・アウト』を聴く管理人がそこにいる。

INSIDE OUT-2 実にメロディアスなのに淋しさを感じる【INSIDE OUT】。ジョン・パティトゥッチベースデイブ・ウェックルドラムが流れるだけでスイッチが入ってしまう。エリック・マリエンサルサックスが最高に歌っている。
 そうしてチック・コリアピアノソロと,その後に続くシンセでのバッキングのセンスが素晴らしい。こんなにシリアスな雰囲気を感じさせるチック・コリアを意識したのは【INSIDE OUT】が初めての経験。【INSIDE OUT】を聴いてからというものチック・コリアへの印象が変化した。チック・コリアピアノに“耳ダンボ”になってしまった。【INSIDE OUT】は,そんなチック・コリアの“忘れられない”名演の1つとなった。
 ラストのフランク・ギャンバレギターソロが“カッコよく盛り上げるだけ盛り上げて”はい,終了〜。
 ええ〜っ,もっと聴きた〜い。寸止め感がヘビロテへと誘う…。

 ただし,このヘビロテの先には“テクニカル・フュージョン”な『BENEATH THE MASK』ではなく“エレクトリックピアノトリオ”の『LIVE FROM ELARIO’S』が見えている!

  01. INSIDE OUT
  02. MAKE A WISH - PART 1
  03. MAKE A WISH - PART 2
  04. STRETCH IT - PART 1
  05. STRETCH IT - PART 2
  06. KICKER
  07. CHILD'S PLAY
  08. TALE OF DARING - CHAPTER 1
  09. TALE OF DARING - CHAPTER 2
  10. TALE OF DARING - CHAPTER 3
  11. TALE OF DARING - CHAPTER 4

(GRP/GRP 1990年発売/VICJ-5)
(ライナーノーツ/チック,悠雅彦)

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