TIME WARP-1 コンセプト・アルバム好きのチック・コリアであるが,その多くはチック・コリアが敬愛するL・ロン・ハバードの作品をインスピレーションの源としている。
 なんと!コンセプト・アルバムではない『EXPRESSION』でのソロ・ピアノでさえ,L・ロン・ハバードからの影響を公言する信者である。

 そんなチック・コリアが,L・ロン・ハバードではない“自力の”コンセプト・アルバムを作ったことがある。
 それがソプラノサックステナーサックスボブ・バーグウッドベースジョン・パティトゥッチドラムゲイリー・ノヴァックとのカルテット編成でレコーディングされた『TIME WARP』(以下『タイム・ワープ』)である。

 チック・コリアカルテット編成ということで『タイム・ワープ』を『フレンズ』や『スリー・クァルテッツ』と比較する輩が多いが,そんなジャズ批評家の記述は無視して構わない(まっ,管理人の意見を鵜呑みにするのもお奨めできませんけど…)。
 仮に百歩譲って『タイム・ワープ』をチック・コリアの過去の緒作と比べるとするならば,カルテット編成だからではなく,コンセプト・アルバムとしての「ファンタジー三部作」とかリターン・トゥ・フォーエヴァーの緒作と比べるのが自然な流れだと思っている。

 特に『タイム・ワープ批評の定番である『スリー・クァルテッツ』との対比は,ボブ・バーグとライバル関係にあったマイケル・ブレッカーとの比較として語られているが“見当違い”も甚だしい。
 ゆえに『タイム・ワープ批評における「マイケル・ブレッカー VS ボブ・バーグ」の論調は全てスルーさせていただきたい。あしからず。

 そう。『タイム・ワープ』の聴き所は,L・ロン・ハバード絡みではない,チック・コリア! コンポーザーでありアレンジャーであり“サウンド・クリエイター”である「裏方」としてのチック・コリアと「演者」としての“ジャズ・ピアニストチック・コリアの「プレイング・マネージャー」ぶりが最大の聴き所!
 ただし,個人的にはアーティスティックなチック・コリアは好きではないし,何よりチック・コリアの“頭の中が透けて見える”かのような「微妙なアルバム」の最右翼だとも思っている。

 さて,チック・コリアは『タイム・ワープ』と題するオリジナルの寓話を創作するに当たり「組曲」のスタイルを選択した。
 好きか嫌いかは別にして,チック・コリアは「組曲」の聴かせどころを心得ている。構成の上手さと充実したグループ・サウンド,そこへ彩りを差し込むリリカルに響くピアノがドラマティックに展開していく。
 多作であるチック・コリアのアルバム群の中にあって『タイム・ワープ』ほど全体の統一感があるアルバムは多くはない。

 それでいて『タイム・ワープ』は,ボブ・バーグのアルバムのようでもあり,ジョン・パティトゥッチのアルバムのようでもあり,ゲイリー・ノヴァックのアルバムのようでもある。
 これこそが「プレイング・マネージャー」チック・コリアとしての成功であり『タイム・ワープ』を「不思議の国のアリス」を題材とした『THE MAD HATTER』や【HUMPTY DUMPTY】の世界へと通ずる,チック・コリア版“マザー・グース”の1つと称するにふさわしいレベルにまで押し上げる原動力となっている。

TIME WARP-2 特にチック・コリア“らしさ”を感じる,難解さと美しさを行き来するメロディー・ライン。そして「組曲」と「組曲」の空間を埋める4人のソロとのバランスが素晴らしい。

 例えば,ゲイリー・ノヴァックドラムソロでラストを締める【テレイン】と【ニュー・ライフ】が,とにかく耳を傾けてみたくなる音楽的なドラミングが最高である。
 1つの独立した曲となっているボブ・バーグの【テナー・カデンツァ】に,ジョン・パティトゥッチの【ベース・イントロ・トゥ・ディスカヴァリー】に,チック・コリアの【ピアノ・イントロ・トゥ・ニュー・ライフ】がこれまた素晴らしい。全てのセクションが『タイム・ワープ』という寓話の主題と連動している。

 この卓越したバランス感覚こそが「プレイング・マネージャー」チック・コリアの“天才”の証し。個人的には『タイム・ワープ』が流れ出すと,アコースティックジャズを聴いているというよりも,古い映画を見せられているような感覚に襲われてしまう。

 だ・か・ら,いつまでたっても『タイム・ワープ』は,チック・コリア版“マザー・グース”止まりなんだよなぁ…。

  01. ONE WORLD OVER (PROLOGUE)
  02. TIME WARP
  03. THE WISH
  04. TENOR CADENZA
  05. TERRAIN
  06. ARNDOK'S GRAVE
  07. BASS INTRO TO DISCOVERY
  08. DISCOVERY
  09. PIANO INTRO TO NEW LIFE
  10. NEW LIFE
  11. ONE WORLD OVER

(ストレッチ・レコード/STRETCH RECORDS 1995年発売/MVCR-219)
(ライナーノーツ/チック・コリア,山下邦彦)

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