ANDALUSIAN BREEZE-1 嘘か誠か?今田勝の【アンダルシアの風】に,あの勝新太郎が歌詞をつけて歌おうとした,なるウワサがあった。
 これって妙に説得力がある。信ぴょう性を感じる。実現していたら松岡直也作,中森明菜の【ミ・アモーレ】に並ぶ大ヒット曲が誕生していたのかもしれない。

 実はこのエピソードに「ジャズ・ピアノの詩人」と称された今田勝の個性が表現されていると思う。「重厚なのに軽やかな音」という意味不明な表現が“一番しっくりくる”独特なサウンドは,今田勝の作曲センスの賜物にあった。
 そんな今田勝の個性が色濃く発揮されたのが,4ビートから離れ,リズミックな可能性の拡大を目指した「今田勝&ナウイン」へと続く80年代のフュージョン路線の名盤群であろう。

 そのスタートとなる一番手こそが,上記,勝新太郎のウワサの発信源となった【アンダルシアの風】収録の『ANDALUSIAN BREEZE』(以下『アンダルシアの風』)である。

 『アンダルシアの風』は,ピアノ今田勝ベース古野光昭ドラム守新治ピアノトリオに,曲毎にゲスト参加するパーカッション今村祐司ギター渡辺香津美が加わった,ジャズでもなくフュージョンでもない“未完成のクロスオーヴァー”!

 全6曲の全てがサンバでありラテンなのだが『アンダルシアの風』の前後を聴き比べてみると,そんなリズムの変化以上に今田勝の音楽の「イ・ロ・ハ」の変化が耳に残る。
 ズバリ,今田勝が“クロスオーヴァー”で追求したのは「メロディー楽器のアンサンブル」だと思う。

ANDALUSIAN BREEZE-2 『アンダルシアの風』について語られる時,決まって今田勝以上に,渡辺香津美の【ANDALUSIAN BREEZE】【MORNING DREAM】でのアコースティックギターや【TOUCH AND GO】でのエレクトリックギターについて語られるが,それは尤もなことであって,渡辺香津美の「ノスタルジック」で「スパニッシュ」で「メランコリック」なメロディーこそが“完成されたフュージョン”なのだから…。

 渡辺香津美の“完成されたフュージョン”に刺激された,今田勝の“未完成のクロスオーヴァー”が,いかにも「ジャズとの決別宣言」のように響くあたりが“最高に美味しい”!
 今田勝の,アドリブではなくアンサンブルを重なり合わせてフュージョンさせた“未完成のクロスオーヴァー”が歌っている!

 そう。今田勝の今(NOW)+勝(WIN)=「NOWIN」!
 『アンダルシアの風』は“スペイン音階のを味方につけた”今田勝の大勝利でのエンディング〜!

  01. ANDALUSIAN BREEZE
  02. MORNING DREAM
  03. GULF STREAM
  04. TOUCH AND GO
  05. SAMBA DEL CENTAURO
  06. NOWIN

(アルファ/ALFA 1980年発売/ALCR-180)
(ライナーノーツ/山口弘滋)

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