REMEMBERING BUD POWELL-1 “ジャズ・ジャイアントチック・コリアの初めてのトリビュート・アルバム。対象は同じピアノの“ジャズ・ジャイアントバド・パウエルへのトリビュートREMEMBERING BUD POWELL』(以下『バド・パウエルへの追想』)。

 バド・パウエルへのトリビュートを制作するにあたり,チック・コリアバド・パウエルと同じピアニストとしての土俵には上がらず,アレンジャーとしてのアプローチを重視している。
 そう。『バド・パウエルへの追想』のアイディアの決め手は,チック・コリアの個人名義を名乗らないという決断であろう。

 『バド・パウエルへの追想』を「チック・コリア・アンド・フレンズ名義」とすることで,チック・コリアピアノは“引き気味”のリズム・セクションの1つとして参加している。
 前に出るのはのスーパー・スター軍団の面々。トラック毎にロイ・ヘインズドラムクリスチャン・マクブライドベースケニー・ギャレットアルトサックスジョシュア・レッドマンテナーサックスウォレス・ルーニートランペットチック・コリアの“イマジネーション通りに”前に出ている。

REMEMBERING BUD POWELL-2 老練の“大御所”ロイ・ヘインズと若年寄の“大御所”クリスチャン・マクブライドのリズム隊と“同列に機能する”チック・コリアピアノがリズミック。
 メロディアスを一手に引き受けたのが,伝統派に属するジョシュア・レッドマンウォレス・ルーニーの気持ちの入ったアドリブと,ケニー・ギャレットのアバンギャルドなアドリブである。単発であっても曲全体とのハーモニーが感じられる。

 実に素晴らしい3管ブラス隊の名演である。この3人のソリストが一堂に会する機会もまたとない。これぞチック・コリアが“狙った”バド・パウエルへのトリビュート効果!
 バド・パウエルの曲を演奏するとなると,ジョシュア・レッドマンウォレス・ルーニーの温度が上がっていく! 目の前で吹き鳴らされているかのような大迫力! やっぱり情熱とスケールのケニー・ギャレット〜!

 この3管ブラス隊の一目惚れしてしまいそうな美しいアンサンブルこそが“アレンジャー”チック・コリアの大仕事であった。

REMEMBERING BUD POWELL-3 正直,管理人はこれまでチック・コリアピアノバド・パウエルからの影響を感じたことはなかったが,今回の『バド・パウエルへの追想』を聴き通してみた感想も同じであった。

 そもそもチック・コリアバド・パウエルはタイプとしては対極に位置している。その「異質な存在感」が殊の外,バド・パウエルへの興味をかきたてるのだろう。

 そう。『バド・パウエルへの追想』の真実とは“ジャズ・ピアニスト”としてのバド・パウエルを排除した「元ネタとしてのバド・パウエルの作品集」であって,チック・コリアの完全オリジナル・タッチで仕上げられている。

 ズバリ『バド・パウエルへの追想』とは,チック・コリアが,バド・パウエルを「空想」し「追想」した“フィクション”上のトリビュート
 ゆえに,実在のバド・パウエルの世界がチック・コリア流に“歪曲”されているのだが,出来上がりを眺めてみると,これこそがバド・パウエルの「亡霊」であって「追想」だと,チック・コリア唯一のオリジナル【BUD POWELL】で確信する。

REMEMBERING BUD POWELL-4 そう。バド・パウエルの曲ではない【BUD POWELL】こそが,真実のバド・パウエルの世界である!

 ただし『バド・パウエルへの追想』は,チック・コリアが「バド・パウエル研究」の成果を披露するためのアルバムであって「他のバド・パウエル研究家」との決定的な差をアピールしたかったように思える。

 世界的な権威として「バド・パウエルと来ればチック・コリア!」との名声を高めたかったんだろうなぁ…。

  01. Bouncin' With Bud
  02. Mediocre
  03. Willow Grove
  04. Dusk In Sandi
  05. Oblivion
  06. Cleopatra's Dream
  07. Bud Powell
  08. I'll Keep Loving You
  09. Glass Enclosure
  10. Tempus Fugit
  11. Celia

(ストレッチ・レコード/STRETCH RECORDS 1997年発売/MVCR-247)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)

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