
そのように結論できたのは,音源ではなく映像から入った影響なのだが,チック・コリアとゲイリー・バートンの場合は,生ライブを見て,そしてチック・コリアと上原ひろみの場合は『DUET』(以下『デュエット』)のボーナスDVDを見た結果である。
正直『デュエット』の音源だけを聴いていたなら,チック・コリアと上原ひろみの“音数の多すぎる”デュエットが,あんなにも笑顔でアットホームなものだったとは信じ難かったことだろう。“超絶技巧な”音源の印象と映像の印象が一致しないのだ。
逆に映像を見た後に音源を聴き直したから感じることもあって,管理人なんかは「今のフレーズはチック・コリア? それとも上原ひろみ?」の判別不能状態の秘密を覗き見たようで,ホッとできたりして…。
「ソロを取り,被せ合い,乗り合い,引けば突っ込み,押せば引き」の長いラリーが続くのに,トリッキーなキラーパスにも余裕で反応できている。やはり鍵盤を見ていては成立できない。
いいや,鍵盤を見る暇もない「音楽芸術の交歓」に没頭し続けた“超絶技巧で音数の多すぎた”ライブ盤であった。
『デュエット』のハイライトは,チック・コリアと上原ひろみの“珠玉のコンビネーション”! チック・コリアと上原ひろみが,時には同期し,時には離れる,変幻自在のピアノ2台の“イリュージョン”!
何もデュエットだからといってハモリ続ける必要などない。逆に名手2人のピアノが揃えばピアノ3台分の演奏ができるはずではないか! そんな「1+1=3」のようなスケール豊かなピアノの“掛け合い”が最高に素晴らしい。
ズバリ,個人的に『デュエット』は,1台のピアノによる「多重録音」のようなものだと思っている。映像証拠があるにも関わらず,そう思わないとやってられない。
だ〜って,ボーナスDVDを見ていて「今,正に上原ひろみがピアノを弾いた。しかし,出てきた音は紛れもないチック・コリアの音」という瞬間があった。映像として見る事で余計に翻弄されてしまう不思議な感覚に襲われたのである。
そう。『デュエット』は,チック・コリアとチック・コリアのフォロワーである上原ひろみとの共演なのだから,キャラクターの違いを聴き分けるのは至難の業。
『デュエット』の中には“ごった煮”のチック・コリアが全トラックに存在している。あたかも「ウォーリーをさがせ!」改め「上原ひろみをさがせ!」のようであって,本物のチック・コリアとチック・コリアのフォロワーである“ウォーリー・HIROMI”が登場している。

やったね,HIROMI! 自作曲【古城,川のほとり,深い森の中】をチック・コリアがHIROMIの隣りで弾いてくれている!
やったね,HIROMI! 【アランフェス協奏曲/スペイン】をチック・コリアがHIROMIの目の前で弾いてくれている!
やったね,HIROMI! ジャズ・スタンダードにも初挑戦!
そう。HIROMI! 『デュエット』は,HIROMIがチック・コリアと肩を並べた記録なんだよ〜!
“ごった煮”のチック・コリアの中から“ウォーリー・HIROMI”を探し出せた時の幸福感が「夢の実現」!
CD 1
01. Very Early
02. How Insensitive
03. Deja Vu
04. Fool on the Hill
05. Humpty Dumpty
06. Bolivar Blues
CD 2
01. Windows
02. Old Castle, by the river, in the middle of a forest
03. Summertime
04. Place To Be
05. Do Mo (Children's Song #12)
06. Concierto de Aranjuez / Spain
DVD
01. Fool on the Hill
02. Concierto de Aranjuez / Spain
(ストレッチ・レコード/STRETCH RECORDS 2008年発売/UCCO-9181)
(ライナーノーツ/チック・コリア,上原ひろみ,小川隆夫)
★【初回限定盤】 2CD+DVD
★ボーナスDVD:【フール・オン・ザ・ヒル】【スペイン】のライヴ映像収録
(ライナーノーツ/チック・コリア,上原ひろみ,小川隆夫)
★【初回限定盤】 2CD+DVD
★ボーナスDVD:【フール・オン・ザ・ヒル】【スペイン】のライヴ映像収録