
“幻の名盤”と謳われるのだから,当然内容が素晴らしい。後にCTIで“ブイブイ言わせる”こととなるドン・セベスキーのアレンジがゴージャス極まりない。
チャーリー・マリアーノの“艶やかな”アルト・サックスをフィーチャーすべく,ストリングスやブラス・セクションを要所要所に配し,アルトが“歌い上げる”アレンジを施している。
ジャック・ラフォージの大金はサイドメンの人選にも表われていて,トロンボーンのボブ・ブルックマイヤー,ギターのジム・ホール,ピアノのジャッキー・バイヤードとロジャー・ケラウェイ,ベースのリチャード・デイビスとアート・デイビス,ドラムのメル・ルイスとアルバート・ヒースといった“ビッグ・ネーム”を含めた総勢28名がドン・セベスキーの指揮のもと,チャーリー・マリアーノを盛り立てている。
この点でジャック・ラフォージは「第二のアルフレッド・ライオン」になりたかったのかもしれない。ジャズ好きとしての本性が隠せない人選だと思う。
レジナにあってCTIにないもの。それは「セオリーなき自由」であろう。
結局のところ『ジャズ・ポートレイト』には,チャーリー・マリアーノの全てが出ているようであって,そうでもない。“カッチリとハメラレテしまった”チャーリー・マリアーノとしては,逆にやりにくかったのかもしれない。
ズバリ『ジャズ・ポートレイト』の主役はチャーリー・マリアーノではなくドン・セベスキーなのである。アレンジャーが,吹かせたいフレーズを主役に吹かせる“痛快さ”が『ジャズ・ポートレイト』最大の聴き所だと思っている。
ジャック・ラフォージから“全権を委ねられていた”ドン・セベスキーが,チャーリー・マリアーノを“意のままに操っている”。
チャーリー・マリアーノのアルト・サックスが「音のパーツの1つとして」ドン・セベスキーに“いいように使われてしまった”?
この辺りにチャーリー・マリアーノの立ち位置があって,同じ状況下でもドン・セベスキーを“手なずけていた”ウェス・モンゴメリー・クラスと比べると「格落ち」評価も致し方ない?

チャーリー・マリアーノに“売れ線”を吹かせるとはナイスなアイディアではあった。これが“幻の名盤”の1つに数え上げられている理由なのだろう。
『ジャズ・ポートレイト』の“目玉”は「巨人・大鵬・卵焼き」ならぬ【THE WIND】【TO TAIHO】【GOODBYE】なのであろうが,個人的には「イージーリスニング・ジャズ」の世界にカッチリとハマッタ“パーカー派らしからぬ”【THE SONG IS YOU】でのアルトが一番のお気に入り。
“幻の名盤”『ジャズ・ポートレイト』は,ジャズではなく「イージーリスニング・ジャズ」の初穂としての“幻の名盤”であった。
だ〜って,ドン・セベスキーのアレンジを軽く聴き流すのが本当に気持ちいいのだから,しょうがないんだもん!
01. I Feel Pretty
02. The Wind
03. To Taiho
04. Goodbye
05. The Shout
06. Portrait Of An Artist
07. Deep In A Dream
08. Pretty Little Nieda
09. The Song Is You
(レジナ/REGINA 1963年発売/ABCJ-550)
(ライナーノーツ/妙中俊哉)
(ライナーノーツ/妙中俊哉)