
しかし管理人にとって,マイルス・デイビス名義のサウンドトラック『死刑台のエレベーター』と来れば,バルネ・ウィランのテナー・サックスなのである。
バルネ・ウィランは『死刑台のエレベーター』のサウンドトラックに参加したフランスのジャズメンの1人にすぎない。
しかしその役所は準主役クラス。『死刑台のエレベーター』においては,マイルス・デイビスが映画のラッシュを見ながら即興演奏をする,そのすぐ後ろでマイルス・デイビスのトランペットの歌の意味を,映画のストーリー展開に合わせて丁寧に別の語法で語っていたのがバルネ・ウィランのテナー・サックスであった。
バルネ・ウィランのアンニュイなテナー・サックスの響きが,物語の悲しい結末へと誘ってくれていた。
そう。マイルス・デイビスのアドリブが最高に素晴らしい。しかし,マイルス・デイビスのジャズのインプロビゼーションが映画音楽として成立することができたのは,バルネ・ウィランのテナー・サックスが“全体を補完していた”からであった。
バルネ・ウィランのテナー・サックスは,思いの外に“黒光り”する。そしてやっぱり“洒落”ている。ゆえにマイルス・デイビスともマッチしたし,おフランス映画ともマッチしたと思っている。
そんな“お洒落でブラックもいける”バルネ・ウィランのオルガン・ジャズの名盤が『INSIDE NITTY=GRITTY』(以下『ニッティー・グリッティー』)である。
『ニッティー・グリッティー』は,エマニュエル・ベックスのオルガン入りのトリオゆえ,バルネ・ウィランの“GROOVE魂”が否が応でも耳に付く。
一聴する限り,バルネ・ウィランってこんなにもブルージーなサックス・プレイヤーであったのか?と耳を疑ってしまう新鮮味に溢れた1枚だと思う。
しか〜し,よくよく聴き込んでいくと『ニッティー・グリッティー』には,ジャズの時流に乗ってきた,いつものバルネ・ウィランが表情豊かに鳴っている。
伝統に即したフレージングが支配的であるが,そこに前衛的で,アフリカ的で,ジャズ・ロックのエッセンスがブレンドされた「洒落た香りを放つ独自の歌心」が“唯一無二”のバルネ流ジャズ!

【キャラバン】こそが,オルガン・ジャズの大興奮を呼び起こす名演。ハイ・スピードで繰り広げられるトリオのインタープレイが「我先に!」と走り出したら止まらない。これぞ【CARAVAN】であって,単音使いがビューッとねっ。
スローな【グラナダ】と【マイ・アイデアル】は“SOLID”なバルネ・ウィランのソプラノ・サックス。繊細に尽きることなく紡がれてゆくファンタステッィクな連続フレージングがメロディアス。
耳馴染みのポピュラー・ソングの【聞かせてよ愛の言葉を】とバド・パウエルの【パリの舗道】が文句なし。“お洒落な”オルガン・ジャズという『ニッティー・グリッティー』のコンセプトが見事にパッケージングされ名演である。
01. Valse Hot
02. Dig
03. Caravan
04. Granadas
05. My Ideal
06. Ah Si Vous Connaissiez Ma Poule
07. Blue Lou
08. The Trolley Song
09. Parlez-Moi D'amour
10. Parisian Thoroughfare
(ヴィーナス/VENUS 1993年発売/VHCD-4029)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/小川隆夫)