
『ホット・ハウス』がこれまた素晴らしい。何年間隔が空こうとも,何年間隔が詰まっていようと,何ら影響のない“安心で安定の大傑作”のリリースである。
過去の2人の大名盤の5枚と比較して『ホット・ハウス』の“目新しさ”を語るとすれば,それは「有名スタンダードのカヴァー集」ということになるのだが,ハッキリ言って,選曲は違えど演っていることはいつも通りで“目新しさ”など感じない。
しかし,この「変化しないという男気」こそが,チック・コリア&ゲイリー・バートンのデュエットについて“ジャズの伝統芸能”と称される所以であって,いつまでも「異次元のデュエット」を守り続けることに専ら価値を見い出すというもの。
逆説的に説明するなら『クリスタル・サイレンス』〜『デュエット』〜『イン・コンサート』〜『ネイティヴ・センス』〜『ライク・マインズ』〜『ランデヴー・イン・ニューヨーク』〜『ニュー・クリスタル・サイレンス』がリリースされてきた約40年という歳月の間に,チック・コリア&ゲイリー・バートンのデュエットを越えるデュエットが登場することはなかった,という事実。
そう。40年経とうともチック・コリア&ゲイリー・バートンのデュエットが「ジャズ・デュエットの金字塔」に変わりがなかったのだ。
このライバル不在の現状が,チック・コリア&ゲイリー・バートンにとっては,大きな壁となり,大きなチャレンジとなってきたと思う。
毎回「手を替え品を替えて」ファンを飽きさせないよう努めるのではなく,正面突破の同じ手法でアプローチするのに飽きさせない。特に1作目『クリスタル・サイレンス』が“世紀の大名盤”のスタートだったのだから,前作を越え続けるのは並大抵の仕事ではなかったことだろう。
ファースト・インプレッションが素晴らしければ素晴らしいほど,次に与えるインパクトは弱くなる。驚きは後退するのである。ただ,それでもその驚きの先に,チック・コリア&ゲイリー・バートンのデュエットがあるのだと信じている。
例えば,生まれて初めて蒸気機関車を見た。富士山を見た。東京タワーを見た。きっとその時は感動したはずなのに,今ではその感動を思い出せない。
ではこれが虹だったならどうだろうか? 何回見ても,何年経っても虹に興奮していまう。あんな虹やこんな虹に【TOUCH THE RAINBOW】。今眺めている虹を見ながら,前回見た「七色の虹」のシチュエーションを思い出したりしてしまう。永遠に色褪せない感動であり,思い出がますます美化されていく。
そう。チック・コリア&ゲイリー・バートンのデュエットは,蒸気機関車や富士山や東京タワーとは異なる「七色の虹」のようなジャズなのだと思う。

そして2012年の『ホット・ハウス』の「七色の虹」も素晴らしい。特に【MOZART GOES DANCING】におけるハーレム・ストリング・カルテットの瑞々しくも重厚感のある「弦楽四重奏」が加わった大名演が素晴らしい。
やがて時間と共に『ホット・ハウス』に対する感動も薄くなることだろう。驚きは後退するであろう。ただ,それでもその驚きの先に,チック・コリア&ゲイリー・バートンのデュエットがある。
『ホット・ハウス』には,チック・コリア&ゲイリー・バートンの強い信念が感じられる。
01. Can't We Be Friends
02. Eleanor Rigby
03. Chega de Saudade
04. Time Remembered
05. Hot House
06. Strange Meadow Lark
07. Light Blue
08. Once I Loved
09. My Ship
10. Mozart Goes Dancing
(コンコード/CONCORD 2012年発売/UCCO-1116)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/原田和典)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/原田和典)