THE VIGIL-1 チック・コリアの新プロジェクトとして“鳴り物入りで”発売された「チック・コリア & ザ・ヴィジル」による『THE VIGIL』(以下『ザ・ヴィジル』)。

 確かに意欲的で挑戦的でチック・コリアフュージョンの王道で素晴らしいのだけれど,管理人としては手放しでは喜べなかった。
 期待値が高かったせいなのだろうが,新しい新しいと騒がれたところで,結局は『ザ・ヴィジル』にしても“過去のアイディアの焼き直し”としか受け取りようがなかった。

 昔はそこまで感じなかったが,近年のチック・コリアのリリース・ラッシュを追い続けていると,ふとした瞬間にブチ当たる「微妙な手直し」フィーリング。うーむ。それこそが“チック・コリアの個性”と言ってしまえばおしまいなのだろうが,事はそう単純ではない。

 思うにチック・コリアは,そのマルチな活動,振り幅,多作からしてマイルス・デイビスの後継者に一番近い存在に見えるのだが,基本的にチック・コリアは「イノベーター」ではない。言ってみれば「技術屋」である。改良は得意なのだが開発は苦手なタイプのジャズメンなのである。

 『ザ・ヴィジル』を聴いて,なぜこのようなことを書いているのかと言うと『ザ・ヴィジル』のハイライトは,正規のバンド・メンバーではない,ベーススタンリー・クラークサックスラヴィ・コルトレーンが参加した【PLEDGE FOR PEACE】だからである。
 そう。唯一のライブ録音でもある【PLEDGE FOR PEACE】1トラックに,残るスタジオ録音6トラックの名演が“破壊”されてしまったからだ。

 「チック・コリア & ザ・ヴィジル」のメンバーは「旬な若手のスター集団」! “御大”チック・コリアと「オリジン」に参加していたティム・ガーランドは別にして,ジョン・マクラフリンから“次代のジャコ・パストリアス”と称されたベースアドリアン・フェロー,“ライジング・サン”と称されたギターチャールス・アルトゥラ,“巨匠”ロイ・ヘインズの孫であるドラムマーカス・ギルモアの“天才”トリオのサウンドは真に新しい!
 新メンバーの“天才”について語ろうものなら『ザ・ヴィジル批評の紙面が足りない。それ位に素晴らしい演奏だというのに,たった1曲で披露したスタンリー・クラークラヴィ・コルトレーンソロで見事に吹き飛ばされてしまっている。

 この辺りをチック・コリアがどう意図したものかが分からない。本当はファンに真っ先に聴いてもらいたかったであろう,アドリアン・フェローチャールス・アルトゥラマーカス・ギルモアの“超絶技巧”が相対的に薄く感じられてしまう。アドリアン・フェローチャールス・アルトゥラマーカス・ギルモアが「名脇役」として輝いている。う〜む。

 ライナーノーツの中でチック・コリア自ら「チック・コリア & ザ・ヴィジル」のバンド・コンセプトについて「旧来の社会規範に挑戦する」と述べているのだから,余計に旧知のゲストをフィーチャーしてしまったバンド・コンセプトへの“揺らぎ”が音楽以上に気になって…。

 チック・コリア“待望の新機軸”の前評判を得た『ザ・ヴィジル』にして「過去現在」の名ブレンダー・に留まってしまったチック・コリアの体たらくぶりに,なぜの嵐?
 チック・コリアに,もう「未来」は期待できないのであろうか?

THE VIGIL-2 管理人の結論。『ザ・ヴィジル批評

 【PLEDGE FOR PEACE】抜きの『ザ・ヴィジル』は大変素晴らしい。「旬な若手のスター集団」に大いに触発されたチック・コリアキーボードが現代最先端!
 【PLEDGE FOR PEACE】入りの『ザ・ヴィジル』は大変悩ましい。フリージャズに打ちのめされるチック・コリアピアノが旧態依然!

 管理人からのどうでもいいヒントはマルチ・リード奏者のティム・ガーランド! 「リターン・トゥ・フォーエヴァー」にはジョー・ファレルがいた。「エレクトリック・バンド」にはエリック・マリエンサルがいた。「ザ・ヴィジル」はティム・ガーランドだ!

 管理人はチック・コリアに「チック・コリア & ザ・ヴィジル」の,特にアコースティック面での「バージョンアップ」を求めます。

  01. Galaxy 32 Star 4
  02. Planet Chia
  03. Portals to Forever
  04. Royalty
  05. Outside of Space
  06. Pledge for Peace
  07. Legacy

(ストレッチ・レコード/STRETCH RECORDS 2013年発売/UCCO-1135)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/チック・コリア,漆崎丈)

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